《MUMEI》 さようならドエス魔人は吹っ飛んだ。 完練はなぜか白いリングシューズ。長い黒髪を両手でかき分け、気合いの声。 「てい、こらあ。たわけこらあ!」 魔人のボディにキック! 叩き潰す戦慄のプロレス! 完練は怒り顔。魔人の背中に腰に頭に両拳を振り下ろす太鼓の乱れ打ち! 「痛い!」 「立てこらあ!」 ドエス魔人は完練にヘッドロック。しかし待ってましたとばかり腰を両手で掴むと持ち上げた。巨体が浮く。 ひねりを加えたバックドロップ! 「NO!」 後頭部痛打。明枝は一言。 「ありえん」 完練は右腕をぐるぐる回す。魔人が立ち上がると走った。 「ドエス魔人!」 叫びながら剛腕で首をかっ斬る。 「リキラリアット!」 「あーれー!」 ドエス魔人は林の中に消えた。 完練はすぐに明枝のもとへ行った。 「大丈夫か?」 明枝は胸と下を隠して恥ずかしがる。完練はそのまま抱きしめた。 「大丈夫か?」 「もうダメかと思った。ありがとうございます」 明枝も抱きついた。 トントン。 車のウインドを叩く音。完練は目を開けた。柊明枝が覗き込んでいる。 「わあああ!」 急いでドアを開けた。明枝は不審な顔をして完練に聞く。 「何でそんなに驚くんですか?」 「いやいやイヤウケア。何でもねんだ」 まあいいやとばかり笑顔になると、明枝は助手席に乗り込んだ。 「ちょっといい?」 「どうぞ」 上は赤いトレーナーだが、下は白のショートスカート。裸足にスニーカー。反則だ。見事な脚線美を惜しみなく披露する。 完練は、いつか光にセクハラだと注意されたセリフを明枝にも言った。 「いい脚してるね」 明枝は嬉しそうに照れて脚を触った。 「そうですか?」 明枝は急に真顔になると、完練の目を真っすぐ見た。 「いよいよ明日ですね」 「そうだな」 「光さんを守ってくださいね。あたし光さんのこと大好きだから」 完練も真顔で明枝を見つめた。 「頼りがいのあるお姉さんって感じ。3人で一緒に仕事したいなあ」 明枝は前方を見ると軽く伸びをした。 「完練さん」 「何?」 明枝は完練の膝に手を置いて顔を近づけた。 「あたしの一生に一度のお願いって聞いてくれます?」 「内容による」 「えええ?」 明枝は甘い声を出してシートにもたれかかった。 「明枝の一生のお願いなら聞くしかないってセリフが欲しかったな」 「で、何?」 明枝はつぶらな瞳で完練の目を見つめた。 「あたしを、アシスタントにしてください」 「アシスタント?」 「甘くなんか考えてませんよ。厳しく教えてもらってOKなんで。完練さんならついて行きますよ」 完練は片手でハンドルを握った。 「今は余裕ないな」 「ギャラはいりません」 「そういうわけには行かない」 「光さんですか?」 「関係ない」 明枝は悲しい顔をして溜め息をついた。 「よくわかりました。もう会うこともないでしょう。さようなら」 明枝がドアを開けようとするので完練は慌てて止めた。 「ちょっと待った」 明枝は上げた腰を下ろすことなく、完練を悲しい顔のまま見つめた。 「さようならってどういう意味だ?」 「あたし、鈍感じゃないもん。わかりますよ」 「違う。誤解だ。いいからすわりな」 明枝はすわった。 「明枝チャン」 「明枝でいいですよ」 「もしも頼みたい仕事があったら、頼むから」 「本当ですか?」 明枝は明るい笑顔。 「完練さん優しいですね」 「オレは優しいよ」 「アハハ」 救われた気分の明枝は、安心した顔でドアを開けた。 「まずは明日ですもんね。ごめんなさいね、気遣わせて」 「いいよ」 明枝は車を降りると、白い歯を見せて手を振った。 「じゃっさようなら。あ、このサヨナラは違うからね」 完練も手を振る。 ドアを閉めると、明枝は歩いていった。スタイルのいい彼女を見ながら、完練は呟いた。 「かわいい。犯したいってドエス魔人かオレは!」 前へ |次へ |
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