《MUMEI》

目を閉じたら、ビニール袋を被された暗闇を思い出してしまいそうだから横になるだけ。
怖い夢を見たら嫌だ……首筋に走る唾液の不快さを思い出さないようにしなければ。あの、ぶつかる息を、篭った声を、不気味なものを。




「先輩……!」


「……安西……」

いつの間にか寝ていたらしい。


「よかった、うなされてましたよ?」

両手を頬を置かれる。
首が涼しくて、身を縮ませた。


「首……どうかしたんですか?」

指摘されて咄嗟に首を両手で隠してしまった。


「なんでもない……」


「……隠してますね?」

首を覆う手を触られた。


「ちがう……やめて」

見られたくない。
一層、手に力が入る。


「何か隠してますね?離してください……見せろ!」

安西の勢いに気圧されて力が緩んでしまった。
安西でもこんな激しくなるんだ……。


「……う、あ……」

一瞬の隙を見計らって力任せに指を解かれた。


「キスマーク……」

恥だ……
死んでしまいたい。


「ウチ先輩ですか?」

七生の名前が何故出るのか。


「ちがう、ちがうよ……」

涙目になってしまう。


「泣いてる……?」

冷静な声色で責められてるみたいだ。


「泣いてない……」

どうか、見ないで欲しい。


「先輩って、弟って言うか家で飼っていた猫みたい……。誰も面倒みないから、俺が育ててた。
お腹に赤ちゃんがいて……修学旅行から帰って来たら亡くなってた……体の小さい白と茶のぶち猫。顎と背中を撫でてやると大人しく喉を鳴らしてた。」

顎と背中を撫でてくる。ムズムズしていたけれど段々落ち着いてきた。


「……先輩、どうして強がるんですか?こんなにボロボロになって……」


「強がってないよ」

俺は俺だから。


「俺が、先輩の近くに居たらこんなになるまで放っておかない。みんな無責任だ……。」

そうだ、安西は俺が好きなんだった……目が、本気であることを語っている。


「なんで……俺なんかを構うの?」


「構うんじゃなくて俺が関わりたいんです。」


「……凄い、安西、俺が欲しい言葉をくれる。」

安西がそう言ってくれると全て許される気がする……


「他に、お望みはありますか?」

献身的な包容力だ。


「……もう、なくしたくない……」


「俺が先輩についていてあげます。心配事なんてありませんよ。」

優しさに懐柔されてしまう。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫