《MUMEI》
朝の教室
家に帰ると、テーブルにラップをかけられた夕食が寂しく置かれてあった。
エリナは一人座って、冷めた夕食を温めもせずにそのまま食べ始めた。
味を感じない。
おいしくも、まずくもなかった。
父はまだ帰っていないようだ。
きっと、今日も愛人のマンションに泊まるのだろう。
母は一人でソファに座り、静かにテレビを観ていた。
まるでエリナの存在に気付いていないかのように、ただテレビの画面と向かい合っている。
エリナは母の後ろ姿を少し見つめた後、無言のまま部屋に戻った。
翌日、エリナが学校へ行くと、昨日のカラオケメンバーの女子数人がテンション高く話し掛けてきた。
「昨日さ、エリナが帰ったあと、多田も帰っちゃったんだけど」
「ああ、うん。なんか追い付いて来たね」
机に鞄を置きながら、エリナは答える。
「やっぱり?ほらほら、言った通りじゃん」
「えー、マジで?」
勝手にそんな盛り上がられても、さっぱり内容が見えてこない。
「あのさ、何が思った通り?」
控え目にエリナは聞いてみる。
「だから〜、多田ってエリナのこと好きなんじゃん?」
「……はあ?んなわけないじゃん」
いきなり何を言い出すのか、この人たちは
「えー、だってさ、昨日、エリナの後を追い掛けるために二次会断った感じがしたんだけど」
「ねえ?」と彼女たちは顔を見合わせて頷く。
「ないね。絶対ない」
「ふーん。つまりエリナにその気はない、と?」
深く頷くエリナを見て、彼女たちは残念そうな嬉しそうな、複雑な表情で一応、納得したようだった。
彼女たちが去ると、いつのまにか前の席に座っていたアンナが振り返った。
「今の、何の話?」
「別になんでもないよ。それより、昨日どうしたの?いきなり帰っちゃってさ」
「うん」
アンナは小さく頷き、「あのさ……」と何か言いかけた。
その時、ちょうどタイミング悪く、始業のチャイムが鳴った。
アンナは「……あとでいいや」と前を向き、一方的に会話を終了させたのだった。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫