《MUMEI》
性犯罪
夜。マンションの駐車場に、高級車が静かに入って来た。
夜月だ。
エンジンを切る。溜め息を吐くと、シートベルトを外そうとした。
トントン。
だれかがウインドを叩く。夜月は警戒しながら助手席側の外を見た。
「あっ」
驚いた。柊明枝ではないか。夜月はウインドを少し開けた。
「夜月さん。ちょっといいですか?」
穏やかな口調。顔も涼しげだ。夜月はドアのロックを解除した。
明枝は自分で開けて素早く助手席に乗り込む。
水色の派手なワンピースは肩が露出していて、生足に洒落たブーツ。
髪も明るい色で、スタイリッシュだ。夜月は思わず見とれた。
「よくここがわかったね」
「夜月さんには、どうしても謝ってほしかったから」
「謝る?」
明枝は真顔で言った。
「謝ってください。そしたら、忘れます」
「ごめん」
「ちゃんと謝ってください。土下座してください」
夜月は笑みを浮かべると、車の外を見た。
「ここの駐車場、汚いんだよね」
「夜月さんの部屋、6階ですよね?」
夜月は笑顔で驚いた。
「そこまで調べたのか?」
「部屋は上がらないけど、あたし玄関まで行きますから、夜月さん。そこで土下座してください」
夜月は胸が高鳴った。
「いいよ」
夜月がシートベルトを外そうと目をそらせた瞬間に明枝はスプレーを出した。
プシュー!
夜月の顔面に噴射。夜月は慌てた。明枝は車外に飛び出す。夜月は急いでシートベルトを外すと、ドアを開けて汚い駐車場を這った。
激しく咳き込む。頭を振る。こんな場所で気絶はできない。
目の前に別の足が見えた。夜月は朦朧とした目つきで見上げた。
「あっ」
光と完練だ。横を見ると少し離れた位置に明枝がいた。
「グル?」
「今度は逃がさないわよ」光が睨んだ。
夜月は開き直った笑顔で立ち上がると、挑発した。
「光の裸は、なかなか魅力的だったよ」
「貴様!」
殴りかかろうとする光を、完練が止めた。
「夜月。警察を呼んだ。すぐに来るぞ」
しかし夜月は慌てない。
「何の罪で警察に突き出すつもりだ?」
光はイライラした。
「あれだけのことしといて、何の罪ですって?」
「今の日本の法律では、俺はすぐ出てくるよ。いきり立つ子分を制止して、レイプはおろか、バスタオルも取らせなかった」
「取ったでしょ!」
光が目を見開いて激怒する。だが夜月は涼しい顔で言った。
「いいかい光」
「呼び捨てにしないで」
「手足拘束してすぐにタオル取られて、まじまじと見られたら屈辱的だろ。それはいくら何でもかわいそうだから許してあげたんだぞ」
「よく言うわよ」
「俺は法廷で質問されるだろう。なぜレイプしなかったか。俺は答える。レイプは残酷過ぎます。そんな非道はさすがにできませんとね」
光と明枝は拳を握りしめて聞いていた。
「君だって言ったじゃないか。情状酌量の余地はあるって」
「ないわ。あなたのしていることは心のレイプよ。絶対に逆らえないのわかっていて辱めるなんて、最低最悪よ」
「でも光チャン。俺の罪は軽いよ。レイプをしていないというのは、それだけ大きいんだよ」
「再犯の危険性100パーセントと、検察に言うわ」
夜月の顔色が変わった。
「光チャン。そんなことしてみな。出所したら真っ先に監禁しちゃうよ」
「そんな脅しにビビるとでも思ってるの?」
「くすぐられたら泣きながら哀願するくせに」
「何!」
また光が殴りかかろうとする。
「完練さん何で止めるの。一発殴らないと気が済まない」
「光チャン。殴ったら今度は本当にレイプしちゃうぞ」
夜月が言うと、完練が前に出た。
「今何て言った?」
「待て完練君。君なら俺の気持ちがわかるだろう」
「かわらんね」
「何カッコつけて。女の子の怯える表情って君も好きでしょ?」
「一緒にするな」
「これは俺に抱かれたいって女とはできないプレイなんだよね」
夜月は調子に乗って喋り始めた。

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