《MUMEI》

どうにかして、説得しなければ…。
私は、必死に言葉を探す。

「そんな、悲しいこと言わないで…間違いなんかじゃないよ」

…ウソだ。

「二人の恋は真実でしょう?如月先輩と一緒なら、どんなことでも乗り越えられるよ」

…本当はそんなこと思ってない。

「赤ちゃんだって、神様が小百合さんに授けてくれた贈り物なんだよ。二人で幸せになるようにって…」

…未成年で妊娠なんて非常識だ。社会的に認められてない年齢で出産しても、幸せになれるわけない。

だんだん私の声が震え出す。
小百合さんはゆっくり顔を上げ、私の瞳を見つめた。
その、澄んだ輝きに、真っすぐな視線に、私は射すくめられる−−−。

まるで、私の偽善の言葉を見抜かれているような。
そんな気がした。

「だから…」

言いかけた時、私の瞳から涙がこぼれ落ちた。
小百合さんは驚く。私は震える唇に指を当て、呆然と呟いた。

「口から、ウソばかり出てくる…」

小百合さんは目を見開いた。涙は止まることがなかった。私は堪えきれず、続けた。

「在り来りの言葉しか言えない…ゴメンね、もし、自分だったらどうしていいか分からないのに、適当なことばっかり…」

小百合さんは黙って私の言葉に耳を傾けていた。私は涙を拭い、呟く。

「どうにかしたい…如月先輩も、小百合さんも、幸せになって欲しい…それはホントなのに、でも、そんなのムリって思ってる自分もいるの」

打算的で、頭が固くて、底意地の悪い自分は、なんて卑しいんだろう。
そして、そんな自分の、その場限りの言葉が、純粋な小百合さんの心に響くわけがない…。

私はしゃくり上げながら、言った。

「ゴメンねぇ…こんな時も役に立てなくて、小百合さんを励ますことも出来ない…」

そこまで言うのがやっとだった。
私は本格的に泣き出してしまい、喋ることが出来なかった。小百合さんは泣きじゃくる私の姿を見つめて、ぽつり、呟いた。

「初めて…」

私はゆっくり顔を上げた。そして、驚く。
小百合さんもまた、涙を流していたからだ。
彼女は細い指で涙を軽く拭うと、美しい微笑みを見せた。

「自分のことで、誰かに泣いて貰ったのは、初めて」

それから彼女はゆっくり目を閉じて、「目が覚めた…」と言いながら、自分のお腹に手を添える。

「私がしっかりしなくちゃいけないんだよね…この子の為にも」

私は呆然と彼女の姿を眺めていた。それは間違いなく『母親』の姿だった。小百合さんは目を開き、黙り込む私に言った。

「ありがとう、ナナちゃん…」

そう言って、あの、柔らかな笑顔を浮かべ、ゆっくり手を差し出すと、私の服を受け取った。

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