《MUMEI》
『想定内』
私達は服を交換して、私が持ってきた靴を履き、小百合さんの部屋の窓から、誰にも気づかれないように注意しながら外へ出た。
夕日が沈み始めて、辺りは暗くなってきていた。
これなら、顔もよく分からないだろう。
でも、安心するのは危険だ。

私は被っていた帽子を小百合さんの頭に被せた。

「これで、大丈夫!」

私がニッコリ笑うと、彼女も微笑んだ。
それから、私が誘導し、小百合さんの家の敷地から、彼女を連れ出して、夜の闇の中に溶け込むように逃げた−−−。




駅前のファッションビルの裏手にある、コンビニ。そこの脇にある裏の路地。
佐野先輩達と、落ち合う約束をした場所だ。
息を切らせながらそこにたどり着くと、すでに先輩達はそこにいて、私達の到着を待っていたようだった。

如月先輩は、私に手を引かれた小百合さんの姿を見つけると、「小百合…」と虚ろな声で呼びかけた。小百合さんも如月先輩を見つけ、眉を切なげに歪ませる。

「コウちゃんっ!!」

彼の名前を叫び、抱き着いた。如月先輩は彼女の細く華奢な身体をしっかり受け入れる。二人とも身体を寄せ合ったまま、離さない。
その姿を目の当たりにして、これが、正しい姿なのだと、思った。

この二人は、一緒にいるべきなんだ。
その手を、離してはいけない。


例え、何があっても。


微かに、瞳が涙で潤んだ。

彼等の間には、目に見えない強い繋がりがあって、それは誰であろうと断ち切ることは出来ない。他の人間が付け入るスキが、この二人にはない。

私の如月先輩に対する『想い』は、負けたのだ。
小百合さんの、あの、強くて美しい心に。

彼等を見つめながら、私は指先で涙を拭う。
佐野先輩が私のもとへやって来て、顔を覗き込み、ニッと笑う。

「お疲れ、上手くやったじゃん。スゲーな、ナナちゃん」

私は彼に、同じようにニッと笑い返し、「楽勝!」と答える。すると佐野先輩は一瞬キョトンとして、それから「生意気!」と屈託なく笑いながら、私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

首尾よく小百合さんを連れ出すことに成功したこともあって、何とも言えない達成感にはしゃいでいる私と佐野先輩に、如月先輩が泣いている小百合さんを抱き寄せながら、呟いた。

「リョータ…瀬戸さん…、ありがとう」

そこまで言って、黙り込む。佐野先輩は「気にすんなって!」と爽やかに言って顔を駅の方へ向けた。

「それよか、早く駅に行かねーと。もうすぐ電車が…」

言いかけた先輩は、急に顔を強張らせた。尖った声で、「屈んで!」と指示をする。私達は命じられたまま、身を小さくして、息を潜めた。

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