《MUMEI》
禁断の領域
光は怒り顔。明枝は無表情で、じっと夜月の話を聞いていた。
「俺は女に不自由していない。でもそういう女じゃダメなんだ。やはり嫌いな男に意地悪されるのって女の子にとって最大の屈辱じゃん」
夜月は得意満面で喋り続けた。
「あの女の子の、変なことされたらどうしようっていう怯えた表情がたまんないよね」
完練はわざと質問した。
「じゃあ、ギリギリのところで止めるのも、そういう表情を楽しみたいからか?」
「おっわかってんじゃん。さすがは男だね」
「それで女の子の心が傷ついてもお構いなしと」
「誘導尋問には乗らないよ。それより女の子の場合、不覚にも感じちゃったっていう負い目があると、警察にも訴えにくい」
また完練が聞く。
「光の場合は偶然遭遇したわけだな?」
「びっくりしたね。でもラッキーだった。小野寺が邪魔しなければ、もっと光の恐怖の顔を楽しめたのにな。惜しかった」
「ふざけないで!」
光が拳を上げるが完練が止めた。
「明枝のビビりまくる顔もかわいかったけど、光の神妙にしているときの表情は格別だったな。ハハハ」
完練はペンを出した。
「全部録音したぞ夜月」
夜月は焦った。
「あ、卑怯だぞ」
「どっちが卑怯だ。女の子は手足を拘束されたら言うことを聞くしかない。無抵抗なのをいいことに屈辱を味あわせるやり口は卑劣だ」
完練はペンをしまうと、一歩前に出た。
「出所したら復讐すると自ら言ったことも入っている」
「汚ねえぞ」
「汚いついでに、録音をやめたあと、貴様をここで再起不能にする」
夜月は怯えた。
「復讐を阻止する方法はそれしかない」
「完練さん…」
「待て。復讐なんて嘘だ。しない、そんなことは」
「信じろというほうが無理だ」
完練が拳を構える。夜月は横に飛んで逃げた。
バチーン!
「がっ…」
夜月はその場に崩れ落ちた。
「し、死んだかもしれない」
ガクッとなって気絶した。光も完練も目を丸くして驚いた。
横を見る。明枝がパイプイスを両手で持っていた。
「明枝チャン。どこにあったのそのイス?」
「そこにあった」
「イスで頭殴ったら死んじゃうって小学校で習わなかった?」
「習わなかった」
完練はまた夜月を見た。完全に気絶している。
「最後はプロレス技かあ」
「技じゃないでしょ」
警察署の前。
光と完練は立ったまま話した。
「人間、超えてはいけない領域がある。夜月みたいな変態は、自己コントロールがどこかで故障するんだな」
「完練さんはコントロールしてんの?」
「誘導尋問には乗らない。オレみたいな正常な人間はコントロールなんか必要ない」
「そうなんだ」
「何だその疑いの微笑みは?」
「疑ってるもん」
明枝が警察署から出てきた。
「お待たせ」
完練は明枝の脚を見たい衝動を理性で抑えた。理性が低いと自己コントロールはエネルギーを使う。
「今度3人でお食事したいですね」
明枝が言うと、光が応えた。
「これから行かない?」
「きょうは遠慮しときます。ラブラブなところ見せつけられても困るから」
光は顔を赤くして否定した。
「ラブラブってどういうこと、あたしたちそういう関係じゃないよ」
「そんな全身で否定しなくても良いではないか」
「キャハハハ!」
明枝は明るく笑うと、両手を振った。
「今度誘ってください。さようなら」
「そのさようならは?」完練が聞く。
「また今度のさようなら。じゃっお休みなさい」
「おやすみ」
「気をつけてね」
「はい」
明枝の後ろ姿を見ながら、完練が呟いた。
「いい子だな」
「惚れた?」
「何を言う気ファイター。オレは光一筋じゃん」
「よく言うよ。保留だよ」
「保留って何だよ?」
「あたし一筋が信用できるまでは保留」
光はスキップするように逃げた。
「しおりしおり、梓梓」
「眼中にないね」
「明枝明枝」
「光光光」
光はまだ、本当の完練を知らない。


END

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