《MUMEI》

佐野先輩は壁に背中をピッタリとつけて、通りの方を睨みつけている。しばらくして、佐野先輩は「…クソッ!」と低い声で毒づいた。

「警察がうろうろしてる…」

その言葉に如月先輩と小百合さんはハッとする。みるみるうちに顔が青ざめていく。
如月先輩は謂れのない罪をかけられて、警察に追われている。きっと、姿を消した如月先輩と小百合さんを捜しているのだろう。

しかし。

私は疑問に思う。

「ただ、パトロールしてるだけじゃないんですか?」

ここは駅前の繁華街。時間は19時前。
ちょうど街が賑わい出す頃だ。
酔っ払いとか、喧嘩とかの為に、警察は巡回しているだけじゃないだろうか。

私の質問に、佐野先輩は首を振り、「見てみろよ…」と囁く。怪訝に思いながら、私は佐野先輩の横に立ち、路地裏から、恐る恐る通りの先を見つめた。

そこには沢山の人達に混じって、異質な雰囲気を持った二人組がいる。濃紺の制服に身を包み、その白いベストには、『POLICE』の文字。
堅苦しい空気を漂わせる彼等は、道行くひとに声をかけ、二言三言交わしてはすぐに解放する。

しかも決まって、若いカップル。
ちょうど、高校生くらいの男女に対して、だけ。


それを見て、私は確信する。

如月先輩と小百合さんを捜しているのだ。

もう、バレたのか…。

私は軽く舌打ちした。どうしてこう、警察っていうのはハナが利くのだろうか。
佐野先輩は焦ったように腕時計を見る。

「やべえよ。マジで時間がねーっていうのに…」

彼の顔を見上げながら、私は瞬いた。
それから微笑み、言う。

「…大丈夫。ケーサツが来るのも、『想定内』」

私の言葉に、佐野先輩は振り向き「え?」と眉をひそめた。私は意味ありげに笑顔を浮かべると、如月先輩と小百合さんの方を振り向き、近寄った。

先程の警察の様子から察するに、おそらくあの二人組は如月先輩達の年齢や背格好など、大まかな情報しか知らないのだろう。

だって、顔を知っていれば、あんな風に手当たり次第若いカップルに声をかけるなんて、無駄なことはしないからだ。

まあ、その方が、私にとっては好都合。

如月先輩と小百合さんは真剣な表情を浮かべている。私は彼等の顔を見返して、フッと微笑んで見せた。

「心配しないで。絶対、二人を逃がしてみせる」

そう言って、佐野先輩を振り返り、如月先輩とシャツを交換するように言った。それを聞いた佐野先輩は閃いたのか、ニヤッと笑い、着ていたTシャツを勢いよく脱いで、如月先輩に放った。

「早くしろよ、コウスケ」

押し殺した声で言うと、如月先輩は戸惑っていたが、すぐにシャツを脱ぎはじめた。

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