《MUMEI》

三人は同時に動きを止め、玄関へと視線を向ける。
開けっ放しになっていた部屋のドアの向こうに薄暗い玄関がある。
その向こうで誰かが動く靴音が響いていた。
表情を引き締めたケンイチは、さっきユウゴに向けたような鋭い視線を織田に向ける。
すると織田は無言で頷き、玄関へと向かって行った。
ケンイチは織田が動くのを見ながら、窓の方へと移動する。
二人ともまるで足音がしない。
にもかかわらず、移動するスピードは早かった。
織田は玄関で静かに靴を履いて覗き穴から外の様子を窺い、すぐに戻ってきた。
手にはケンイチとユウゴの靴を持っている。
「追っ手か?」
ユウゴが聞くと織田は頷いた。
「廊下はだめだ。そっちは?」
織田は床に靴を置きながら声をひそめて言った。
ケンイチはカーテン越しに外を確認して首を左右に振った。
「こっちもだめだな。誰もいない」
ユウゴも静かに動いて外を覗いてみた。
たしかに、下に見える道には歩行者も車の姿も見えない。
しかし、何がだめなのかがユウゴにはわからない。
「何がだめなんだよ。誰もいないんならそっちから逃げればいいじゃねえか」
するとケンイチは「馬鹿か、おまえは」と軽く笑った。
「下の道路にさっきから一台も車も通ってない。深夜でも車の通りが絶えない道なのに、だ」
言われてようやくユウゴは理解した。
「……つまり、囲まれてるわけだ」
「そうだ。おそらく周囲の道路は封鎖されているだろう」
織田の言葉にケンイチは頷いた。

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