《MUMEI》 忍の話「そんなお前に、教えておいてやる」 「…何を?」 忍の口調はいつも通りだが、そこにいつものあの 嫌味な笑顔は無かった。 「お前がかいだ匂いは、線香の匂いだ」 「線香って…花火?」 俺の脳裏に浮かんだのは、高山一族とした花火の光景だった。 「あんな綺麗なもんじゃない。ただ、臭いだけだ」 それから忍は、俺から離れた。 自分の服装を、俺から見せるために。 「そして、これが喪服だ」 「もふく?」 「どちらも、葬式の必需品だ」 「そうしき?」 「葬儀と言えばわかるか?」 「…っ…」 俺は、その言葉の意味だけは知っていた。 それは、旦那様が死んだ後 『もう、葬儀も終わった』 『そうぎ?』 『亡くなった…死んだ後の儀式だ。 もう、旦那様はどこにもいない』 絶句している俺に、忍は告げた。 護が、…忍の父親が死んだ事 その、葬式に、責任者として 喪主として、出席した、とー 「お前には、旦那様と同じ事を言っていた」 「『普通に生きろ』?」 「『…生きて下さい』、だけどな」 護は、最期まで俺に対して敬語だった。 前へ |次へ |
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