《MUMEI》
形見
「それから、『アレ』をお前に、と」


『アレ』


忍が指差した先にあったのは…


護が使っていた杖だった。


「何で?」

「知るか」

「忍にじゃあ…」

「俺には、『コレ』がある」


そう言って忍は懐から金色の懐中時計を取り出して見せた。


「でも、俺、杖使わない」

「…その歳で使うわけあるか」


(あ…)


忍が、いつものように笑った。


(何か、安心するかも)


落ち込んだ忍は、らしくない。


「俺より忍に必要になるんじゃないか?」


笑顔でそう言った俺に


「そうなったら、奪いに来る」


ニヤリと笑いながら、忍は言った。


「もう大丈夫だな、忍」

「何の事だ?」

「護の事だ」

「…眠るようだった」

「そうか」


(良かった)


護が、旦那様のように苦しまなくて。


「それより、土産はどうした?」

「あ、…… ゲッ!」


忍に言われ、海で拾った貝殻を取り出そうとした俺は

「忍が抱きついたせいだからな」


ポケットの中で粉々になっていた貝殻を、恐る恐る忍の目の前で見せた。


忍はそれを、ため息をつきながら、自分のハンカチに包んで持ち帰った。

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