《MUMEI》

佐野先輩はぐるりと鉄棒を一回転すると、勢いよく鉄棒から飛び降り、着地する。

そして、先輩は私の方へ振り向く。
優しい笑顔を浮かべて。

「残念ながら、サユリちゃんは、俺のタイプじゃないんだよね〜」

タイプ?

「どんなひとが、タイプなんですか?」

気になったので、尋ねてみた。何故、『気になった』のかは、考えないようにした。
先輩は腕を組み、首をもたげて「うーん…」と考えこんだ。

そして、答える。

「不器用なコ、かなぁ」

「…不器用?」

それって、短所だし。タイプって言えるの?

先輩は私の疑わしげな瞳を無視して、続ける。

「真面目すぎて、頭固くて。素直に自分の気持ちを表現出来なくて…まあ、要するにツンデレで、お人よしで…」

そう言って、先輩は伏し目がちになる。

「終いには、友達とその彼氏の為にケーサツに追いかけられて、汗まみれになって、しかも、訳の分からんセンパイと一緒に学校に忍び込んじゃったり、もー最低!?って感じかな」

…それって、まさか。

先輩は目を開いて、私を見つめた。その瞳は優しかった。今までの、誰よりも。

私は、先輩の顔を見つめ直し、堪えきれず、吹き出した。

「趣味ワルッ!?」

笑いながら言うと、先輩も笑い、「そうかもね」と言った。

私達は一瞬黙り込んで見つめ合い、それからまた笑いあった。




夢は続く。

次から次へと、季節が移り変わるように、絶え間無く、姿を変え、色を変え、変化しながら続いていく−−−。




「ごめんなさいっ!!」

私は大きな声で謝りながら、頭を下げた。周りの人達が不思議そうに私の姿を見つめる。

ここは、大きな百貨店の化粧品売場。
その、フレグランスカウンターの前で、私はそこのスタッフに向かって、深々と頭を下げているのだった。

目の前に立っているスタッフ−−従姉妹の矢代 歩さんは、呆れ顔でため息をついた。

「いいわよ、別に。謝らなくても…」

私は顔を上げて、物凄い勢いで歩さんの言葉を遮った。

「でも、せっかく歩さんがくれたものを…申し訳なくって」

そう言うと、歩さんはまたため息をつき、そして笑う。

「いいの!あれは、菜々子ちゃんにあげたものなんだから、あのあとアミアイレをどうしようと、それは菜々子ちゃんの勝手なの」

「それに…」と、彼女は悪戯っぽく笑って顔を覗き込む。

「なんか、吹っ切れた顔してる。表情が、明るいね」

「そ、そうかな?」

私が戸惑いながら答えると、歩さんは深々と頷いた。

「おばさんに、タンカ切ったんだって?聞いたわよ」

思わず、肩を揺らした。
『タンカ』とは、おそらく『クソくらえ』発言のことだろう。

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