《MUMEI》
あれから
夏休みが終わり、新学期を迎えた教室は、やはり賑やかだった。

クラスメート達は、休み前と同様に、己の自慢話を繰り広げている。

そんな中。

「ねー、聞いて!!」

大声を上げたのは、あの、中原 絢香。
彼女は隣にいる女の子に興奮したように話した。

「夏休みにね、私、如月先輩を見かけたのっ!」

私は思わず耳を傾ける。絢香は続けた。

「駅のホームで、女の子の肩抱いて特急列車に乗り込んだの…妙に真剣な顔しててさ〜…」

うんぬんと話している。どうやら、如月先輩達は無事、電車に乗ったようだ。まさか絢香からそんな話を聞かされるとは。

世間は狭いんだな。

実感していると。

「瀬戸さん!」

松田 結菜が声をかけてきた。
私は彼女の顔を見て、「おはよう」と挨拶すると彼女も朗らかに返事をして、突然、言った。

「聞いたよ〜!瀬戸さん、彼氏いたんだって?」

私は眉をひそめる。
結菜は含み笑いをして、続けた。

「夜の学校、忍び込んで、ナニしてたのよ〜?」

私はギョッとする。
誰かに見られていたんだ。
結菜は「し・か・も!!」と一言ずつ区切るように呟く。

「相手、あの、佐野 遼太先輩なんでしょ?羨ましい〜!」

当然のように名前をだしたので、「あれ?」と思った。

「佐野先輩のこと、知ってるの…?」

尋ねてみると、結菜は「もちろん!」と大きく頷いた。

佐野先輩は普通科でも特に有名人らしく、ちゃらちゃらした外見からは思えないほど、実は頭が良いらしい。
なので、やっぱり女子から人気があって、取り巻きがいっぱいいるとか、いないとか。

そういえば。

初めて、佐野先輩と出会った時、言ってた気がする。


−−俺、この学校では結構、有名な方だと思ってたのにー…。


私が彼のことを知らないと言ったら、相当ショックを受けていたな…。
当時を思い出し、自然と顔がほころぶ。それを見逃さなかった結菜は、楽しそうに笑う。

「瀬戸さん、思い出し笑い?ねー、ねー、何?二人の間に、何があったの〜?」

「教えて〜」と、じゃれついてくる結菜に、私は困ったように笑いながら、「ナイショ!」と答えた。
はしゃいでいる私達のもとに、ほかのクラスメートが近寄り、「何の話〜?」と割り込んでくる。私は結菜と顔を見合わせ、「ヒミツだよ!」と笑顔を見せた。




変なの。
あんなに苦手だったこのクラスが、それほど悪いものじゃないと、思えるようになるなんて。

これも、全て、あの夏休みに。
如月先輩と小百合さん、そして佐野先輩の、みんなで過ごした時間が、あったからこそ。

私が、自分の『殻』を破ることが出来たから。
《自分らしく》、前を見ることが、出来たから…。

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