《MUMEI》

「……勘違いしているようだから言っておくが、俺にお前が思っているような嗜好はない。この娘と共に住んでいるのは義務を果たしていることに相違ない。」

「そうなのか? 依頼か?」

「……そうだ。」

完全にではないにせよ実際は違うのだが、ヴァンはそれについて他人に話そうとはしない。

……にしてもこの男、簡単に信じすぎだ。本当に馬鹿なようだな……

そのおかげでヴァンは助かったのだが。

何にせよこれで話が続け「ひどい!」られなかった。

「ひどい!」と言いたいのは俺だ……、とヴァンは思った。今日は何故こうも上手く事が進まないのだろう、と。

……日頃の行いのツケか……?

「あんなに愛してくれたのに、そんなこと言うなんて……!」

ディンがヴァンの視界の隅で驚きながら「何!? やっぱり……!」などと言っていた。先程は馬鹿さに助けられたが、今度は苦しめられそうだ。問題はそれよりも――

「ルキア……それは、どこで覚えた……?」

「この前ダマスクスに行った時〜。」

悲痛そうな表情を一変、ニッコリと笑いながらルキアは答えた。

ふざけるだけなら止めて欲しかった。出掛ける度に妙な知識を吸収して来るのもだ。だが、この娘に何を言ったところでどうにかなるとも思えない。厄介な娘を押し付けられた、ヴァンはそんな気分だった。

「こうして邪魔するだけならば部屋に帰れ。」

さすがにちょっと反省したのか、ルキアはヴァンの言葉にしおらしい反応をした。

「ごめんなさい……もう邪魔しないから、ここにいていーい……?」

またもヴァンの視界の隅でディンが驚いている。今度は顔を赤くして「おぉっ……!?」とか言っている。

それに対して、ヴァンは心の中で突っ込んだ。

……ロリコンはお前じゃないのか……?

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