《MUMEI》

 「あんまり周りばっか見てると転ぶぞ。ファファ」
高層ビルが立ち並ぶ大通り
眼に映るもの全てが珍しいのか、左右前後さまざまな所へと視線を向けるファファの頭に田畑の手が置かれる
その手に気付いたファファが、今から何所へ行くのかを問うてきた
「取り敢えずは、お前の服の補充だな」
「服?ごはんの材料は買わないですか?」
予定にはないそれに小首を傾げるファファへ
田畑は僅かに肩を揺らしながら
「それもあるけど、お前の服買っとかねぇと、年中俺の服って訳にもいかんだろ」
「ファファの、服……」
「給料前だから、そんな大したものは買えんけどな」
若干申し訳なさそうな田畑に、ファファは勢い良く首を横に振って見せ
「正博君、ありがとです」
礼を言われ、柄にもなく照れた
その顔を見られるのが何となく恥ずかしく、田畑は突然に前を見据えるとファファの手を握ったまま歩き始める
暫く歩き、そして着いた其処は
田畑の知人が経営している古着屋だった
「あら、田畑じゃない。お久しいわね」
店に入るなり、随分と化粧の濃い人物が現れて
そのけばけばしいそれに溜息を田畑はついていた
「その化け物面、相変わらずだな。畑中」
素直な感想をそのまま伝えてやれば
だが別段気を悪くした様子もなく
「アンタも、その失礼な物の言い方。相変わらずね」
穏やかに談笑を始める
ソレはお互い様、と返せば
世間話が始まってしまい、長くなりそうなソレを田畑は途中で遮った
「話す途中で申し訳ないが、コイツに着せる服、何かないか?」
店主・畑中へと尋ねれば、畑中はファファへと視線を向け
まじまじ眺める事を始める
「かわいい子ねぇ。アンタ、この子どうしたのよ?」
ファファを見た畑中が、まじまじと眺め
その視線に、ファファは若干の戸惑いと怯えの色を窺わせた
「……畑中、悪いがもう少しその面離せ。ファファが怯えてる」
溜息混じりにそう嗜めれば
「ファファちゃんって言うの!?可愛い〜」
だが話など最初から聞く気がないのか
畑中の興味はファファにばかり向く
益々戸惑ってしまうファファを見
「だから、もう少し後ろに下がれっていてんだろうが。テメェは」
窘めてくる田畑
その物言いに若干の引っ掛かりを感じたのか
「……田畑。あんたソレ、ちょっと失礼よ」
異を、唱えてくる
「悪かったな、失礼で。俺はソレで32年間生きてきたし、これからも生きていく予定なんで」
それより服、とカウンタ―を指先で小突き催促
畑中は溜息を一つ付きながら
「もう。アンタも高見も年取ってせっかちになっちゃって。嫌になっちゃう」
「何だよ、高見の奴最近来たのか?」
愚痴る様に呟いたソレには敢えて返す事はせず
この店で聞くには珍しい名につい問うていた
「つい昨日ね。それも随分ときれいな子連れちゃって、驚いちゃった」
「かわいい子って、あの高見が?」
聞かされたそれに驚き、つい疑いの念を向ける田畑
だが畑中は笑みを浮かべながら
「そ。やっとアイツも本気になれる相手に出会えたって事でしょ」
服を見てくる、と話も終わりに踵を返し畑中は店の奥へ
その背を溜息混じりに眺め見る田畑の服の袖をファファが不意に引いた
「どうした?ファファ」
顔を覗き込んでやりながら問うてやれば
ファファは珍しく小難しそうな顔
どうかしたのかを改めて尋ねれば
「あの人、女の人なのに男の人の声してました。どうしてですか!?」
田畑の顔を見上げ、どうしてなのかを更に問うてくる
どう説明すればよいものかと返答に詰まってしまった
「あいつは……。何て言えばいいか……。ファファ、オカマって知ってるか?」
「オカマ、ですか?知ってます。ご飯を炊くものです」
「いや、そっちの釜じゃなくてだな」
「なら、草の先っぽに茶色のきりたんぽが付いているのですか?」
「それも違う。それは多分蒲の穂だ。しかしファファ。何でお前きりたんぽなんてモン知ってんだよ?」
地方の名物
ヒトの住む世界について疎いはずの彼女が何故そんなモノを知っていたのか
微妙に謎だ

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