《MUMEI》 愛は会社を救う(56)「藍沢クン、ちょっと来てくれるかな」 副支店長が手招きすると、由香里がきびきびとした動作で彼のデスクへと向かう。 人事労務管理システムの、ちょっとした操作を訊きたいらしい。 「これさ、決裁ボタンが灰色になっちゃって押せないんだけど、どうして?」 「あ、それは保険区分が選択されていないからです。ここで何か選ぶと…ほら」 「おお、ほんとだ!」 「ここ、エラーメッセージ出ないし、わかりずらいですよね」 最年少の由香里なら、副支店長以下全社員が気軽にデスクに呼ぶことができる。 何より年長者を敬い、情報弱者と同じ目線で接する姿勢が、男性社員たちには喜ばれているだろう。 この光景を見るにつけ、職場内の風通しが日に日に良くなっていくのを、私は肌で感じていた。 しかし同時に、それを不気味に静観している目があることも。 ――山下仁美である。 前へ |次へ |
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