《MUMEI》

“あれ?
渉…いないのかな?”


『やっぱ家は
落ち着くわ〜(笑)。』


稜兄は無邪気に
入院生活からの脱出を喜んでいた。


…でも、
右腕・左足を骨折している稜兄は、この家でどうやって生活をしていくつもりだろう…?
左手もケガしてるし、両手使えないじゃん…。


私と渉が付きっきりで
介護するわけにもいかないし、何より勝手に退院した稜兄の介護を渉が手伝ってくれるだろうか…?


“はぁ〜。
考えてたら頭痛い。
考えるの止めよう…。”


『稜兄!
暑かったでしょ?
お茶飲む?』


『おぉ。』


『渉が帰ってきたら
ちゃんと謝って、許してもらおうね…。
これから色々手伝ってもらわないといけないんだし。…って聞いてるの?』


『…あぁ分かってるよ。』


『…稜兄?
さっきのハイテンションはどうしたの?
いきなり元気ないじゃん。』


『…なぁ。璃久。
本当に悪いんだけどさ、
頼みがあるんだよ…。』


『…何?キャラにも無く
改まちゃって〜。』


『…俺、便所行きたい。』


『………?
べっ!べんじょって?
トイレだよね?
…え〜!!
ひっ!一人でいける
…わけないか。
…って私が付き添うの?
…いやいや。ムリ〜!』


『…だよな。』


『…えっ!どうしよう。
渉が帰ってくるまで
我慢出来る?』


『我慢ったって
アイツ何時に帰ってくるんだよ…。』


『…分かんない。』


―10分後―


『あぁ〜!!
駄目だ!限界…。
もう我慢できね〜!!
…俺、何とか
1人でやってみるわ!』


『1人でって…。』


“ムリだよ。”
って言いたかったけど、
稜兄は余程、切羽詰まる状況だったんだろう…。


器用に壁に寄りかかりながら片足でトイレまで向かっていった…。


心配だけど
見に行けない…。


私は、
そっと耳を澄ましていた。


バタンッ!!


『稜兄!!』


トイレから
凄い物音が聞こえた…。


急いで見に行くと
トイレの入り口で疼くまっている稜兄。


『…ちょっと大丈夫?』


『…痛ってぇ〜。
やっぱ1人で無理だわ。』


おでこを真っ赤にした稜兄が呟いた…。


“えぇ〜い!
この際。…恥ずかしいなんて言ってらんない。
看護師さんなんて
みんなやってるんだから!よしっ!!”


『稜兄!掴まって!』


私は、稜兄を抱え
トイレの中まで入った。


『パンツ下ろすよ…。』


私は、稜兄の前で
かがんだ…。

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