《MUMEI》

そう…


彼を偶然見かけたのは、
桜が満開に咲き誇る
東京専門学校の
キャンパスだった…。


田舎から1人…
東京に出てきた私は、
大きな期待と不安を胸に、この学校へと通う。


入学式を終え、
田舎者の私が
都会のデザイン専門学校に来てしまったことを
早くも後悔し始めていた時キャンパスの中庭から
バスケットをしている
数人の男子学生を
見かけ足を止めた…。


楽しそうな学生達を
何気なく眺めていると…


『仁(じん)!パスッ!』


一際、大きな声に
振り向いた私。


仁と呼ばれた男の人は、
颯爽とパスを受け取り、
見事にシュート。


シュッ……ガコンッッ!


…決まった。


スラッと高い身長に、
長い手…彼のボールは
キレイな放物線を描きながら、ゴールへと吸い込まれていった…。


『ナイス!仁っ!!』


仲間の一人が、彼に
ハイタッチをする。


『今のは、まぐれだよ!』


そう言って照れながら、
髪の毛をクチャッ
と掴んだ彼…。


………………。


“あ゛っ!!”


私は、思い出した。


私が中学時代…
思いを寄せていた
一つ年上の先輩…


卒業間際に
突然転校してしまった…


バスケが得意で…

照れ屋さん…

クラスのリーダーで…

バスケ部の部長…

そして何より…

髪の毛を
クチャクチャにする仕草は


間違いなく


私の初恋の相手…


“一ノ瀬 仁”。


…仁先輩だ。


…きっと仁先輩なんだ。


『あの〜すいません!!』


ハッと気が付くと、
仁先輩がコッチに向かって叫んでいる。


“えっ?…私?”


『…はい!?』


驚いた私が聞き返すと、


『だから〜(笑)そこ!!
ボール取って!』


“…ボール?”


私の足元には、
さっきまでバスケットを
していたボールが
転がってきていた。


『あっすいません!!』


急いでボールを投げた。


『どうも!』


軽く頭を下げ、
バスケを再開した彼は、
私に気が付いていない。


私が中学時代…
バスケ部のマネージャーをしていた“羽菜(はな)”だということに…。


場違いな雰囲気に
少し落ち込んでいた私は、思いがけない先輩との出会いに喜んでいた。


それも無理はない。


あの頃…


仁先輩に振り向いてほしくて、必死になってアピールしていた淡い初恋は、私にとって、とても素敵な思い出だったから…。

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