《MUMEI》
「な、すげー疲れた顔してる、全く寝てねーんだからちっと寝とけ?
また加藤君が起きたら教えてもらう様に潮崎君に俺が頼んどくから」
秀幸は胸ポケットから車のキーを出しテーブルに置いた。
これは、おまえは車ん中で寝てろって意味。
孝志が秀幸に惇が起きた事を告げたら俺に伝えられる様に本人はここで待機する気なんだ。
秀幸は常に俺の事を考えてくれる。
常に俺を守ってくれる。
俺を…助けてくれる。
「…秀幸、俺秀幸に言わなきゃなんない事ある」
「ん、なんだ」
俺はキーを見ていた目線を秀幸に移す。
秀幸はいつもと変わらない表情で俺を見つめていた。
自動販売機の機械音。
廊下から聞こえてくる看護師の声…。
俺は数秒瞼を閉じて、一度だけ息を長く吐いて。
すると秀幸は表情を変えないまま立ち上がり俺の隣に移動してきた。
俺の隣に座り、じっと俺を黙って見て。
「俺、惇と……
セックスした……」
まるで他人事の様に俺の言葉が流れた。
呼吸困難。
呼吸困難で死んでしまいたい。
必死に表情を崩す事なく秀幸から視線をそらさずに頑張る。
けじめをつける為に、
俺に視線をそらす事は許されないのだから。
気味が悪い位表情を変えない秀幸。
じっと俺を見ている。
お互いに
無言
…無言…。
自販機の音が突然静かになった。
「……そっか」
秀幸は立ち上がり、俺に背を向け自販機に千円札を突っ込んだ。
何回か札を受けつけないエラー音がして、やっと自販機に点灯がつく。
ガタン
ガタン
チャリン…
チャリン……
「加藤君はやっぱり裕斗に惚れてたか、そっかー……」
「え?」
秀幸はことりと俺の前に缶コーヒーを置いた。
「秀幸?」
秀幸の表情は、一変していた。
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