《MUMEI》
愛は会社を救う(57)
「私、なんだか"仕事してる"って感じがします」
彼女自身のリクエストで来た居酒屋チェーン店のカウンター。
何杯目かのピーチフィズを片手に、由香里はしみじみと呟いた。
「それは、なによりです」
私もそのことを、率直な喜びを以って受け入れていた。
最近とみに精悍さを増したように見える、由香里の端正な横顔。
そこからは、最初の頃には窺えなかった、社会人としての充実した日々が見て取れた。
解かれた黒髪の隙間からのぞく、形の良い耳。
そこに光るシルバーのイヤリングが、清楚な大人の女を演出していた。
その耳元から頤(おとがい)へと続くすべらかなラインを眺めながら、今夜は、いつにも増して酒が進んだ。

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