《MUMEI》
愛は会社を救う(58)
「いつか赤居さんに、お礼を言おうって思ってました」
不意に身体の向きを変え、由香里がまっすぐに私を見る。それは思わず視線を逸らせてしまうほど、力強い光を湛えた瞳だった。
「何の、お礼ですか」
出来得る限り大人の落ち着きを以って、私も彼女の方を見る。
しかし由香里の方は、言葉を選ぼうとするあまり、一瞬、子供のように黙ってしまう。
もどかしげに、軽く唇を噛む仕草が妙に艶かしい。
私は一呼吸置くように、由香里に付き合って頼んだレモンサワーのグラスを傾けた。
「赤居さんがいらしてから、私…仕事が、楽しいんです」
幾分上気した頬。真摯に気持ちを伝えようとしているのがよくわかる。
「楽しい?」
「楽しい、というか、嬉しくて。だから、お礼が言いたくて」
一語一語区切るようにして、大切に言葉を繋ぐ。

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