《MUMEI》 初出勤コンビニを円満に辞めたれおんは、いよいよ夢のクリニックに初出勤だ。 時間は9時からだが、彼女は8時半に来た。 「おはようございます!」 「おはよう」 賢吾は心底嬉しそうだ。 「ほんま爽やかやなあ。殺風景なクリニックが一気に常夏や」 「よく言いますよ」 れおんはコンビニで働いた3年間も30分前の出勤を心がけていた。そのため3年間無遅刻を達成できた。 「お嬢、こっちや」 「はい」 賢吾は、れおんを6畳の和室に案内した。 「ここはお嬢の部屋や。好きに使ってええぞ」 「本当ですか?」 「押入に布団もある。仮眠したいときは出したらええ」 れおんは真顔で賢吾を見た。 「仮眠なんかしないと思いますけど」 賢吾は、ハンガーに掛けられているピンクのナース服を差した。 「これがお嬢の仕事着や」 れおんは焦った。 「冗談ですよね?」 「ほんまや」 「ナースだからナース服っておかしいですよ絶対」 「全然おかしくない」 「コスプレだと思われますよ」 「思わんよだれも」 れおんは恥ずかしかったが、ある程度は院長の言うことを聞くしかないと諦めた。 「じゃあ、着替えます」 れおんが睨む。賢吾は和室から出た。カーテンを閉めると、れおんは服を脱いだ。 いくら何でも着替え中にカーテンを開けるようなことはしないだろう。れおんはそう信じて、一気に下着姿になった。 「そうだお嬢」 「キャア!」 れおんは慌ててカーテンを掴んだ。 「何ですか?」 「お嬢。わいがカーテン開けると思ったんか?」 「すいません、条件反射で」れおんは赤面した。 「まあええわ。お嬢。嫌ならキャップは被らんでええよ」 「はい」 少し助かった。れおんはナース服を着ると、和室から出た。 診察室に入る。賢吾はれおんを直視した。 「おっええやないか。似合うよ」 「はあ…」 「しかしお嬢は、素敵やなあ」 しみじみ感嘆する賢吾。れおんは照れた。 「ホントに関西の人ってトークが達者ですよね」 「だれが関西や?」 「え?」 れおんは焦った。 「あれ、院長って関西の人じゃないんですか?」 「わいは東京や。荒川、文京、江東と三代続いた正真正銘の江戸っ子や、てやんでえ!」 「あたし、てっきり関西の人かと思ってました」 「てやんでえ!」 「院長、大阪に住んでたんですか?」 「わいはずっと東京や、てやんでえ!」 れおんもイスにすわって話した。 「何で関西弁で話しているんですか?」 「わい関西弁好きやねん。ギャグ言うとき関西弁のほうが都合ええねん」 「そうですかね?」 「てやんでえ!」 れおんは賢吾のしつこさに呆れた。 「ホンマもんの関西人が聞いたら、インチキ関西弁てすぐバレるよ、てやんでえ!」 「あたしにはわからないですけど」 「お嬢はずっと東京か?」 「はい」 「てやんでえ!」 れおんは仕事の話をした。 「院長、ナースって立ってますよね?」 「すわっててええよ。それよりお嬢。てやんでえは笑うところやろ」 「いやあ…」 れおんは大きく首をかしげた。 「タイミングが」 「そうやな。ギャグはタイミングが命やからな。タイミングハズしたらバカ受けするもんも滑ってしまう」 タイミング以前の問題だと思ったが、優しいれおんは言わなかった。 「ところでお嬢」 「はい」 「きょう一人、お客さんが相談に来るよ」 「嘘」 れおんは緊張した。 「あたし何してればいいですか?」 「そこにすわって、てやんでえって言ってればええよ」 れおんは怒った。 「真剣に聞いてるんですけど」 「キレたらあかん。まあ、相槌打ったり、へー、ほー言ってればええよ、てやんでえ!」 「あと1回てやんでえって言ったら帰りますよ」 賢吾は焦った。 「待ちなはれ。てやんでえで辞められたら、わいはただのアホやないか」 「アハハハ!」れおんは明るく笑った。 「何受けてんねん。肝心なときに笑わんで」 前へ |次へ |
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