《MUMEI》
アンナの話
昼休憩、エリナは文化祭の委員会に呼ばれた。
昼食を食べながら、今年のテーマなどを話し合うのだそうだ。
四時限目にようやく戻ってきたアンナは、エリナとご飯が食べられないことをひどく残念がった。
「聞いてほしいこと、あるんだって」
「うん、分かってんだけど、後でいい?あたし、マジで行かなきゃ」
「でも…」
「ごめんね」
呼び止めるアンナを強引に振り切って、エリナは教室を出た。
正直、人の話を聞くのは気が進まない。
しかも、ああいう切り出し方をするときは、間違いなく相談事だ。
相談事ほど面倒なことはないとエリナは思う。
エリナは人に相談などしたことがない。
他人に悩みを打ち明けて、解決するとは思えないからだ。
今まで、そうやって乗り切って来た。
とにもかくにも、お昼をつまらない会議で過ごし、午後の授業を乗り切る。
話があると言っていたはずのアンナはなぜか話し掛けてこない。
向こうから話してこないなら別にこっちから聞く必要もないだろう。
授業も終わり、さあ帰ろうとエリナは鞄を手に席を立つ。
しかし、アンナがいない。
教室を見回していると、廊下からやけにすっきりした表情のアンナが現れた。
「ごめん、エリナ。帰ろ?」
「う、うん。え、どしたの?」
「何が?」
「なんか、すっきりした顔して」
「そ?別になんにもないよ」
そう言って笑うアンナはいつもの彼女だ。
「ま、いいや。帰ろうか」
そう言って廊下へ出ると、階段の近くに多田が珍しく一人でいた。
「よう、斎藤」
多田が自然に声をかけてきたが、エリナはそっけない挨拶を返してその前を通り抜けた。
その後ろでアンナは笑顔で手を振っていた。
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