《MUMEI》
愛は会社を救う(63)
「ねえ。藍沢にいろいろ仕込んだの、赤居さんでしょう?」
ふいに質問され、私は言葉に詰まった。
「やっぱり見立て通り、伝説のジョブトレーナーだったのかしら」
冗談めかして言う知子に、口元に作り笑いを浮かべて応える。
「私は情報を提供しただけです。藍沢さんは、インプットした情報を活かす能力に長けていらっしゃる」
信号待ちをしていると、フロントガラスに大粒の雨が落ち始めた。夕暮れの雑踏に、傘を持たない人々が行き交う。
知子はそれを見ながら、おもむろにワイパーのスイッチを入れた。
「藍沢のこと、守ってあげてくださいね」
前を見ながら、神妙な面持ちで言う。重みのある言葉だった。
しかし私には、ある一つの確信があった。
「おそらく…その必要はないと思います」
「どうして?」
意外そうな表情で知子がこちらを見る。
信号が変わり、横断者を待って車が動き出す。
「いえ。今は、おそらくとしか言い様が無いのですが」
私は言葉を濁らせた。それはまだ、裏付けのある確信ではなかったからだ。

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