《MUMEI》 愛は会社を救う(64)「ところで」 今日、知子と会ったのは、別の用件だった。 「青地さん、明日出勤されますよね」 「ええ」 前の話題にこだわることなく、質問に応じてくれる。 「総務グループでは、他に誰か?」 「私だけです」 「そうですか。…実は、1つお願いがあります」 「何でもおっしゃって」 知子は嬉しそうな微笑を浮かべながら、力強く言ってくれる。 「あるファイルの中から、2、3枚の資料をコピーしていただきたいのです」 「いいわ。それ、どこにあるのかしら」 委細も訊かず、引き受けてくれるのが有難い。 私は耳元に口を近付け、低い声でファイルの場所を告げた。 「…え?」 運転中にもかかわらず、驚いた表情で訊き返される。 私は黙って前を向き直した。 「わかりました。明日、必ず」 知子がハンドルを握ったまま、何度も頷いた。 前へ |次へ |
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