《MUMEI》
愛は会社を救う(65)
翌土曜日は、朝から酷い雨になった。
マンスリーマンションの狭く殺風景な部屋で、私は独りベッドに身を横たえていた。
目が覚めてからずっと、これまでの出来事を幾度となく反芻している。
私が来る前、支店の業務は明らかに停滞していた。それはなぜだろうか。
通達の連絡ミスが相次ぎ、本社からの信頼が損なわれてきたからだ。
そして、連絡ミスが起こったのは、管理職への報告義務が遂行されなかったことが原因だろう。
その報告義務を故意に怠っていたのは、チーフの山下仁美だった。
彼女は情報を隠蔽し、独占し続けていた。
では、何のために情報を独占する必要があったのか。
社内で自己顕示欲を満たすため?…それもあるだろう。
あるいは、コアな情報にアクセスできるパスワードを盗む、そのきっかけを作るため。
そして実際に、管理職だけが閲覧できる人事考課情報を覗き見た。
なぜそんなことをしたか。
自分の性的嗜好に適った青地知子の弱みを握り、自らの手中に収めたかったから?
(いや、どこかが違う…)
私は、喉に突き刺さった小骨のような違和感を、絶えず抱き続けていた。

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