《MUMEI》
吾妻のマスコット
「ところで、あの先輩なんで俺達に話しかけてきたんだ?」


俺の記憶が確かなら、大蔵先輩と俺は初対面だった。


(となると…)


「去年クラス委員だったから」


(やっぱり志貴の知り合いか)


志貴は同学年だけでなく、先輩・後輩にも知り合いが多かった。


「後は…、祐也と、『吾妻の姫』と話したかったのかも」

「は? 何で?」

「私がクイーンで、祐也が姫って呼ばれてるみたいに、先輩はマスコットって呼ばれてるから」

「マスコット?」


(それって、男としてどうなんだ?)


確かに小柄で言動がやけに可愛い先輩だったが。


「お菓子もらえるからいいみたいよ」

「いいんだ、それで」


首を傾げる俺を見て、志貴はもう一度『いいのよ』と言った。


「そんな個性的な先輩いたんだ…」

「去年の文化祭は張り切り過ぎて知恵熱出していなかったし、陸上は苦手らしいから」

「そっか」

「祐也は普段視野狭いし」

(今までに比べれば広いんだけどな)


忍と護と旦那様しかいなかった世界に比べれば


今は、世界は、こんなにも、広い。


「祐也?」

「ん? あぁ、そうだな」


俺は、ぎこちなく笑った。

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