《MUMEI》 愛は会社を救う(67)その日突然、資料室のドアが開いた。 山下仁美。 勤務開始から、早ひと月以上。実質的なファースト・コンタクトだった。 「あら、ずいぶんきれいに片付いたのね」 嫌味っぽく、取って付けた様に言いながら、キャビネットに囲まれた資料室をゆっくりと見回す。仕草の一つひとつが、見え透いて空々しい。 しかし椅子にかけたままの私は、そんな仁美の存在をただ見上げるしか術がなかった。 「おかげさまで」 そう言う声が聞こえないかのように、私の前を悠然と横切って作業テーブルの脇まで歩を進める。 素足に黒いエナメルのパンプス。オフィスで唯一カーペットの無い床に、硬いヒールの音が響く。 初めて間近に接する後ろ姿は、遠くから見るよりも一段とスリムで、均整が取れていた。特に小顔のせいもあり、実際以上に肩幅が広い印象を受ける。 「あれだけのガラクタを整理しちゃうなんて…」 仁美は腕組みをして、こちらを振り返った。 前へ |次へ |
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