《MUMEI》
「俺でも惇の事守りたい、大切なんだ、あいつの事好きなのは事実なんだ…」
「だから抱いたんだろ?
だから加藤君を取ろうとしたんだろ?わかってるさ、
なかなか心許せねー裕斗が自然に付きあえる一番のダチだもんなー、裕斗がここまで明るくなったのも…
加藤君がいたからだ」
溢れる涙をでたらめに擦っていたらいつも秀幸が持ちあるいているハンカチで拭われた。
そのハンカチで俺は自分で拭きだす。
ハンカチから秀幸の匂いがする。
秀幸の優しさが流れてくる。
「潮崎君には加藤との事言ったのか?」
「…うん、……言った」
「頬ちょっと赤いのもしかして潮崎君か?」
「うん、でも俺から頼んだの、いい加減でどっか他人事なとこあってどーしょーもねーから気合い入れてくれって」
ちょっと困った様子で秀幸は俺の頬を撫でる。
残念ながら手加減して殴られた頬。
もう一度殴れって言ったけど殴られてすっきりされたくねーから終わりだって言われた。
殴った隆志の方が痛そうな顔をしていて……。
俺はとんでもない事をしたんだと改めて自覚した。
隆志はやっぱり惇に惚れているんだと。
俺に対してはただふらっと頼りたかっただけだったんだと、
完全に分かった。
今の隆志の中には惇しかいない。
惇の事がとにかく大切。
秀幸が俺に対して抱いてくれている感情と同じ。
夜中ずっと秀幸と同じ包み込むような目線で惇を見つめ、ずっと手を握っていた。
俺が惇にした事を告白した後も、そして殴った後も。
その惇に向ける想いを変える事なくじっと惇を見ていた。
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