《MUMEI》

「そうか。でも、どちらにしてもまずはこの部屋から出なきゃいけないよな。……出口は塞がれてる。どこから出る?」
ユウゴが聞くと、織田は少し考えてバルコニーを指差した。
「こういう時のために非常口があるんだろう」
言って彼はケンイチを一瞥すると音もなくバルコニーへ通じる窓へと移動した。
ケンイチは織田の視線を受けてすばやく部屋の奥へと走り、すぐに鞄を背負って戻って来た。
そして床に置かれた自分の靴を履く。
「ほら、おまえも早く履け」
小声で言ったケンイチがユウゴの靴を蹴って寄越す。
その行為に文句でも言ってやろうかと思ったユウゴだが、今はそれどころではないと思い直し、靴を履く。
気のせいか玄関の向こうでしていた音が聞こえない。
静かだ。
ユウゴが不思議に思っているうちに織田は静かに窓を開けた。
「来い。行くぞ」
織田の声に促され、ケンイチとユウゴは姿勢を低くしてバルコニーへと出た。
いつでも動けるように準備をした二人を確認して、織田は非常用の梯子を一気に下へと落とす。
派手な音が静かだった空間に響き渡る。
同時にそれとは違う爆発するような音がどこかで響いた。
反射的に背後を振り向いたユウゴは白い煙を廊下に目撃した。
「おい、早く行け! 奴らが来るぞ!」
思わず怒鳴るとケンイチがユウゴに顔を向け「おまえが先に行け!」とユウゴの背中を押した。
すでに織田は下の階へ降り、新たな梯子を降ろしている。
ユウゴは勢いよく梯子に飛びつくと二段抜かしにまるで落ちるように梯子を降りた。

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