《MUMEI》
スリリング
もりやすは強引なことはしない。
「わかった。ごめんね」
「いえ、全然平気」
今度は腿をマッサージする。もりやすの両手が素早く動き、れおんの大切なところに触れそうになる。
胸が高鳴った。
わざとだろうか。れおんは唇を噛み、目を閉じて身を任せた。
これは練習なのだ。それをわかっていて承諾したのだから、少しくらいのことは我慢しよう。れおんはそう思った。
もりやすは態勢を入れ替えて腿の付け根から内股をマッサージする。
「あっ」
手が何度も秘部に当たる。れおんは厳しい表情でもりやすの手首を掴んだ。
「気をつけて」
「あ、ごめん」
れおんはすぐに仰向けになった。
「れおんチャン」
「はい」
「実はお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
もりやすは、いきなりれおんの両手首を掴んだ。
「え?」
れおんは慌てた。もりやすが迫る。
「NOならNOって言ってくれれば、それで諦めるから」
れおんは顔を紅潮させた。
(まさか、愛の告白?)
こんな場所で。一気に胸の鼓動が高鳴る。
「れおんチャン」
「はい」
「オイルマッサージの練習もしたいんだけど」
「そんな……え?」
れおんは拍子抜けした。
「オイルマッサージ?」
「ダメ?」
「でも、オイルマッサージって全裸でしょう?」
「メチャクチャ気持ちいいよ」
「全裸は恥ずかしいですよ」
「シャイなんだ」
れおんは首をかしげた。
「シャイじゃないでしょ、普通恥ずかしいでしょう」
もりやすは手を離すと、また膝を攻めた。力が抜ける。れおんは思わず笑みがこぼれた。
「気持ちいい?」
「悔しいけど気持ちいい」
白い歯を見せるれおん。もりやすは足の指に手の指を入れて意地悪した。
「ぎゃあああ、やめて!」
のけ反るれおんを見てもりやすは笑った。
「くすぐり弱いんだ?」
「くすぐりは昔からダメなの。許して」
もりやすの目が光る。脇腹をくすぐるような格好をしてまた聞いた。
「オイルマッサージさせて」
「何、断ったらくすぐるの?」
「そんなことしないよ」もりやすは手を引っ込めた。
「水着つけちゃダメなんですか?」
「もちろんいいよ」
即答するもりやすを見て、れおんは思った。イヤらしい気持ちで言っているのではないだろうと。
「仮にオイルマッサージをやるとしたら、どこでやるんですか?」
「お店で」
「あ、お店使ってもいいの?」
「大歓迎だよ。もちろん無料で」
さそがし気持ちいいだろう。れおんの気持ちが傾いた。
「わかりました。じゃあ、お願いします」
「良かった」もりやすの顔が輝く。
マッサージを終えると、ドリンクを出そうとするれおんを制し、もりやすはさっさと玄関で靴を履いた。
れおんもバスタオル一枚の姿でサンダルを履く。
「お見送りしますよ」
「え?」もりやすの顔が曇る。
「エレベーターの前までは行けないけど」
「どういう意味?」
「意味って?」
「女の子がそんな格好で廊下出て、だれかに見られたらどうすんの?」
「いやあ…」れおんは困った。
「軽率だよ」
「すいません」
かしこまるれおんを見て、もりやすは明るく言う。
「約束して。バカな男は多いから。本当に怖いから。気をつけるって」
「はい」れおんは小さくなった。
「じゃっ、おやすみ」
「お休みなさい」
もりやすは帰った。
「怒られちゃった」
れおんは口を尖らせたが、すぐに笑みがこぼれた。
ああいう人なら信用できる。
れおんはバスタオルを取り、シャワーを浴びた。
冒険気分を味わいたい。そんな気持ちが抑えられない。
「あたしっておかしいのかなあ?」
バスタオル一枚で彼氏でもない男性にマッサージをされる。夜の診察室で二人きり。しかも診察台の上に寝かされ、裏表たっぷり揉まれた。
正直スリル満点だった。
れおんは和室に入る。スリムなボディ。見事な脚線美。自分の体は好きだった。
「あたし、変じゃないよね?」

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