《MUMEI》
無抵抗
休日。
れおんは店へ行った。豪華なつくりに気圧された。無料でなかったら、とても来れないと感じた。
壁から何から濃いブルーで、光の演出が目を奪う。
まるで深海に潜ったような別世界の雰囲気を漂わせている。
玄関には、もりやすのほかに店長と女の子がいた。
「店長の町田唯です。ようこそ」
40歳前後に見えるが、スタイルが良く、どこか妖艶な感じがした。
「よろしくお願いします」
恐縮したれおんが頭を下げると、店長が言った。
「きょうはゆっくりマッサージを堪能してください」
町田店長は笑みを浮かべると、裸足の店員を見た。
「マキちゃん。じゃあ、よろしくね」
マキはピンク色のユニフォームを着ている。短い髪でノーメイクに近いナチュラルフェイス。
それでも魅力的でかわいいのは若さか。
「こちらへどうぞ」
「はい」
れおんは後ろから付いていった。
いきなり年齢は聞けないが、十代に見える。おそらく自分よりも年下だ。
れおんは聞いた。
「もりやすさんて新人なんですか?」
「いいえ」
「マッサージを勉強中とか言ってたけど」
「スペシャルコースの研究中ですよ」
話が違う。れおんは心に固く誓った。賢吾の言うことは信じない。
「シャワー浴びるので全部脱いでください」
れおんはバッグを置き、服を籠の中に入れた。女同士でも全裸は恥ずかしい。
れおんはピンクのバスタオルを体に巻くと、部屋の中を見回した。シャワールームらしきものはない。
マキが部屋のドアを開ける。
「シャワールームはこちらです」
「廊下歩くの?」
「大丈夫です。女性客しかいませんから」
れおんはバスタオル一枚の姿でマキのあとに続いた。
「女性客限定なんだ?」
「はい」
「あれ、お店の名前何て言ったっけ?」
「拷問エステです」真顔で答えた。
「アハハハ」
とりあえず笑ったが、れおんは不安も出てきた。ギャグだろうがあまり洒落にはなっていない。
シャワールームに入った。脱衣所も中も広い。れおんは段々心配になってきた。
「それでは姫君さま。どうぞ」
「姫君?」
「私は召使いでございます。マキとお呼びください」
れおんも調子に乗った。
「マキ」
「はい」
「シャワールームはなぜこんなに広いのだ?」
「それは全身をマシンが洗うからです」
「マシン?」れおんはキョロキョロした。
「姫君さまは、ただ両手を広げているだけで良いのです」
驚きだ。
「こうか?」れおんは両手を水平に上げた。
「はい。上品な姫君さまには申し上げにくいのですが、両足も肩幅ほどに広げてください」
れおんは言われた通りにした。すると、マキがレバーを引く。いきなりマジックハンドが4本出てきて、れおんの両手首と両足首を掴んだ。
「ちょっと待って何これ?」
芝居なんかしていられない。れおんは顔を赤くして慌てた。
「ようこそ、拷問エステへ」
悪魔の笑み。マキの態度が違う。れおんは弱気な顔で暴れた。
「ほどいて」
「クックック。召使いってさあ。お姫様のこと羨ましいと思うあまり、それが恨めしいになって、憎たらしいに変わるのよねえ」
「あ、これお芝居の延長なの?」
「どこまでがお芝居かわかんないから、スリル満点なんじゃーん」
(冗談でしょ?)
そうだ。きつい洒落に決まっている。れおんはそう信じた。ここは密室。完全に無抵抗にされて、れおんは全く弱気の姿勢だ。
「マキちゃん。あたしをどうする気?」
「全身をたっぷり洗ってあげます」
マキがれおんのバスタオルを剥いだ。
「いい体してますね」
本気で感嘆している。同性に誉められるのは嬉しいが、不安のほうが大きい。
マキがスイッチを押した。壁から10本以上はあるマジックハンドが四方八方から出てきた。
「ちょっと待って何をする気?」
「洗うの」あっさり言った。
「ダメダメ。くすぐったいでしょ?」
「いじめていい?」
「待って、待って」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫