《MUMEI》
志貴視点
(よし、順調ね)


お化け屋敷の前に並ぶ行列と、中から聞こえる悲鳴


それに、受け付けの女子の報告を聞き、私は劇の衣装に着替える為に演劇部の部室を目指そうとした。


…でも


「志貴!」


(この声)


一年の時から私に付きまとう声


「何、拓磨」


それでも、今は不快とは思えなくなった声に私は振り返った。


その表情は、いつも同じだった。


(耳と尻尾が見える)


さっき祐也と行ったアニマル喫茶を少し思い出す。


『嬉しくて、仕方ない』


そんな顔をいつも拓磨はしていた。


何回も『嫌い』だと言った。


私は祐也が好きだったから。


(今でも拓磨よりは好きだけど)


その好きは、今では『人間として』の好きだ。


「劇、頑張って下さいね!」


拓磨の言葉はいつも普通


ストレートで、偽りが無い。


(私が好きだというのも本気なんだろうけど)


『嫌いじゃないけど特別好きかはわからない』


それが、今の私の正直な気持ちだった。


(とにかく、今は劇に集中)


「ありがとう」


一応、拓磨にそう告げて、私はまた歩き始めた。

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