《MUMEI》

「絵本で見ました。ここに来る前にファファ、沢山沢山勉強したです」
だが照れた様に笑うファファを見、そんな疑問など何処かへと消え失せる
「そか。頑張ったんだな、えらいぞ」
微妙に論点がずれている事に互いが気付く事をせず唯笑いあう
その笑い顔は本当に楽しそうなそれだ
「アンタ、そんな顔も出来るんじゃない」
初めて見たと、さも意外そうな顔の畑中がそこにいた
その手には服の山と、もう一方の手には何故かデジタルカメラ
写真を撮られたと気付いたのはちょうどその時だった
「あまりに貴重な笑顔だから撮らせてもらったわ」
「撮ってどうすんだよ。そんなもん」
「アンタぐらい見てくれがいいとね、結構高値で売れるのよ。」
「……ひとの写真勝手に売んなよ」
「あら、別にいいじゃない。減るもんじゃなし」
悪びれる様子もなく
畑中は紙袋の中へと服を詰め込むと田畑へと押しつけた
「お代は要らないわ。ファファちゃんの可愛さに免じて奢ってあげる」
片目を閉じ田畑へとウィンクを投げかけてくる畑中
その気前の良さに田畑は瞬間訝し気な顔をしながらも
「珍し。ま、助かったけどな、給料前だし」
その行為に甘える事にした
袋を受け取り店を出ようとしたその、間際に
「何なら、高見の処にでも行って、何か奢ってもらったら?」
と無責任な提案
だが田畑は首を横へ振って返す
「それは遠慮しとく。そんな事した日には高見の奴に半殺しにされるだろうからな」
「それもそうね」
「服、ありがとな」
「気にしないで。ファファちゃん。また来てね」
手を振って向ける畑中へ深々頭をファファは下げ
田畑はその手を取って早々に店を出た
「正博君」
暫く歩いた後、ファファが田畑を呼んだ。
田畑は身を翻すとファファに目線を合わせるため軽く膝を折りながら
「どした?」
短く聞き返していた
「……ありがとです。お洋服」
小声での礼に、田畑は笑みを浮かべ
「どういたしまして。お前が喜んでくれれば俺も嬉しい」素直な言葉を返す
「ファファが喜ぶと、正博君嬉しいですか?」
以前にもしてきた問い掛け
小首を傾げるファファへ、田畑はその頭に手を置いて
「はい、嬉しいです」
以前と同じに言葉を返した
「正博君が嬉しいとファファも嬉しいです〜」
満面の笑みを見せるファファに田畑も同様に笑い返す
ファファが来てからというもの笑う事が本当に多くなった気がする
笑う事で気持ちがこれ程までに穏やかなソレになるなど
今までの田畑では気付く事が出来ない事だった
ファファはそれをいとも容易く田畑へと与えて
兎に角、日常の空気が優しくて楽しい
「何所か、行きたい処、あるか?」
ファファの頭を田畑は撫でてやりながら問う
暫く考える素振りを見せ、そして徐に田畑のシャツの裾を取った
「ファファ、よく分からないから正博君にお任せします」
「そうか?じゃあ……」
ファフの手を取ると田畑はそのまま車へ
乗り込むと行き先を告げる事もせず走り始めていた
ファファは首を傾げながら田畑を見上げ
何所に行くのかと不思議気な顔だ
結局は何も告げられないまま
暫く走って到着した其処は
「正博君、此処……」
「お前、遊園地来た事無いだろ。時間も余ったし、たまにはいいかなと思ってな」
別の処が良かったか、と問うとファファは首を横へ
眼の前に広がる景色に驚き、つい見入ってしまう
「皆、とっても楽しそうです!人は皆、此処に来るとあんな風になっちゃうですか!?」
興奮気味に話すファファへ
田畑は僅かに肩を揺らしながら
「大体の人間はな」
とファファ頭をの撫でる
その手に成すがままのファファが、だが田畑へと小首を傾げながら、田畑もそうなのかを問うていた
「俺か?ま、嫌いじゃねぇかな。今日のお出かけの締めくくりだ」
一緒に遊んでくれるか、との田畑にファファが否を唱える筈もなく大きく頷いて返した
フリーパスを二人分購入し中へと入れば
広がる賑やかな景色にファファの眼が輝き始める
「何、乗りたい?」
園内マップを渡してやりながら問うてみれば、それをヒトとり眺めた後その中心を指差した

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