《MUMEI》
知らない
教室へ戻る気持ちにはなれず、エリナは校舎の端にある非常階段に座りこんだ。
頭がまるで働かない。
アンナが自殺?
だって何も聞いていない。
昨日はメールだってなかったし、悩んでいた様子もなかった。
それなのに、なぜ……
「中島、病院だって?」
突然の声に驚き振り向くと、階段の上に多田がポケットに手を突っ込んで立っていた。
「あんた、なんで……」
「俺も先生に聞かれた。中島と仲良かったのかって。ほれ、俺はみんなが友達だから」
多田はエリナの座っている所の一段上に腰を下ろした。
「あんたさ、どうせ中島が飛び降りた理由も知らないんだろ?」
エリナはむっとして、多田を睨みつけた。
「あんただって知らないでしょ?別にあんたはアンナと仲良かったわけでもないし。転校生だし」
「……あいつ彼氏に暴力受けてた。知ってた?」
まるで世間話をするように多田は言った。
「……え?」
知らない。
「そんでつい最近、妊娠したかもって」
そんなこと知らない。
「ついでに、軽くいじめられてたし」
「いじめ?誰に?」
「クラスの何人か。つまり、あんたのトモダチだね」
知らない。あたしは何も知らない。
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