《MUMEI》
守視点
「拓磨! 俺の分もよろしく!」

「あ、俺のも」

「取れたらな!」


拓磨はダッシュで体育館に向かった。


演劇部の劇は文化祭で一番注目されていた。


祐也は自覚が無いが、それだけ祐也は人気があるのだ。


(去年は地味なヤツだったしな)


何故あんなに可愛い顔を隠していたのか、未だに不思議だ。


(そういえば、去年は撫子も劇見たって言ってたよな)


人混みが苦手なはずなのに、去年撫子は一人で文化祭に来ていたのだ。


俺は皆に撫子を紹介したかったが、撫子がそれを拒んだからできなかった。


「そういえば、守を好きだって言った美少女来なかったな」


既に着替えを終えていた真司が何気なく言った。


「あ、あぁ」


丁度撫子の事を考えていた俺は、少し焦っていた。


実は


俺は、文化祭が始まってから、一度も撫子を見かけていなかった。


(もしかして、嫌われたかな?)


ズキンと、胸が痛んだ。


撫子は、学校で俺にあまり話しかけてこなかったが、割と見かける事が多くて、よく話はしていた。


それが何故か、ここ数日は全く見かけなくて


正直、寂しかった。

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