《MUMEI》
魔法の手
もりやすは男だ。裸を見られるのは恥ずかしい。れおんは警戒した。
店長の町田唯は、自信に満ち溢れた笑みを浮かべると、両手でれおんの肩を触った。
「え?」
ゆっくり円を描く。触れるか触れないかの微妙なソフトタッチで、両手は円を描きながら肩、そして背中へと下りていく。
れおんはゾクゾクとして鳥肌が立った。
「れおんチャン」
「はい」
「エステやマッサージ店は、よく行くほう?」
「たまに」
「今度、私のマッサージを受けてみる?」
両手が腰や脇腹を優しく攻める。
「はう…」
「どうしたの。気持ちいいの?」
れおんは白い歯を見せて答えた。
「メチャクチャ気持ちいいです」
「じゃあ、今度たっぷりかわいがってあげる」
「手加減してくれます?」
町田唯は笑った。
「ふふふ。わかった。手加減してあげるわ」
魔法の手はれおんの体から離れた。一瞬油断させてから不意打ち。タオルの下からお尻に指を滑り込ませた。
「あん」
しまった。れおんは真っ赤な顔をして口を両手で押さえた。もりやすに聞かれてしまったか。
(恥ずかしい…)
もりやすの顔が見れない。
町田店長は微笑を浮かべたまま、ベッドを離れた。
「もりやす君」
町田唯は耳もとで囁く。
「感度いい子ね。落としてみなさい」
「任せてください」
店長が部屋から出た。もりやすが近づく。れおんは緊張感が増した。
「れおんチャン」
バスタオルを掴む。れおんは言った。
「水着は?」
「水着?」
「約束破るなら帰りますよ」
「そういうこと言っちゃダメだよ」
もりやすはビキニを枕もとに置いた。れおんはうつ伏せのまま水着を手にした。
「小さい」
れおんは寝ながら横を向く。
「もりやすさん。水着つける間、向こう見ててください」
「うん」
もりやすは背を向けた。れおんは鏡がないかを確認すると、起き上がって水着をつけた。
「あたしがいいって言う前にこっち見たら帰りますよ」
「ダメだよ」
もりやすが怒った調子で言った。れおんは控えた。店長といいマキといいSばかりだ。店を出るまでは警戒心が必要だ。
気まずい雰囲気は良くない。れおんは明るく言った。
「いいよ」
もりやすは相変わらずだ。れおんの極小ビキニを見ても何の感慨も示さない。お世辞の一言もない。
れおんは大いに不満だった。とことんプロなのか。それとも、やきもきさせる裏テクなのか。
れおんがうつ伏せになろうとすると、もりやすが言った。
「仰向けに寝て」
いきなり仰向けとは。れおんは少し笑みを浮かべ、仰向けになった。
もりやすは真剣だ。オイルをれおんの脚に塗り、マッサージしていく。
診察室でれおんの弱点をある程度把握したのか、膝を中心に弱いところを攻めていく。
「気持ちいい…」
「気持ちいい?」
「手加減して」
「手加減なんかしないよ」
「嘘」
今度は内股と下腹部の同時攻め。れおんは慌てた。笑いながら聞く。
「ちょっと、これって、まじめなマッサージだよね?」
「もちろん」
「嘘」
「不真面目なマッサージなら、れおんチャン喋ってられないよ」
カチンと来た。れおんにも意地がある。
「それはないと思う。ファッション誌読んでいられると思う」
挑発には挑発で返した。
もりやすは何を思ったか手を拭くと、ファッション誌を一冊持ってきた。
「読んで」
もりやすは真剣だ。れおんは迷った。これで負けたら悔し過ぎる。しかし断れば逃げたと見られる。
れおんはすました顔でファッション誌を手にした。
「むきになるなんて若いですね」
れおんは内心ドキドキしながら本を広げた。
もりやすもオイルマッサージを再開する。
下腹部と内股の同時攻め。しかしビキニさえ取られなければ、落とされることはない。
そう思い、れおんはファッション誌をしっかり持った。もちろん読む余裕はない。
腰が浮きそうになる。でも店長の魔法の手には、まだ遠く及ばない。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫