《MUMEI》
愛は会社を救う(69)
「単刀直入におっしゃったらどうです?」
男の挑発的な態度に、仁美の表情が僅かながら気色ばむ。
そして机に片手をつくと、前屈みの姿勢で圧力をかけるように顔を近付ける。
襟の開いたブラウスから覗く、首から鎖骨付近にかけての白い肌。
それは年齢を感じさせない、手入れの行き届いた極上の美しさだった。
バストはコンパクトな仁美だが、男はこのデコルテと呼ばれる部分になら思わず視線がいってしまう。
まるでそれを熟知しているかのように、男の劣情を煽るようなポーズだった。
同時に、ふっと懐かしい匂いが鼻腔の奥に届く。
それは、あの夜、知子がつけていたのと同じ化粧水の香りだった。
一瞬、私の中に動揺が生まれる。
わざわざこの演出をして来たのだとしたら、敵は心理戦にも長けていると認めざるを得ない。
だが、ここで怯むわけにはいかなかった。

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