《MUMEI》
母親
黙り込んだエリナを見て、多田は小さく息を吐いた。
「あんたさ、実は友達いないんじゃねえ?自分でも気付いてないけどさ」
多田の声がやけに頭に響く。
「トモダチいるって、言ってんじゃん。あたしはトモダチ多いの」
「トモダチはいても友達はいないだろ」
わけのわからないことを言う。
「トモダチに違いなんかあるわけ?」
イラついて言うエリナに、多田は少し間を置いて言った。
「あんたはただ、嫌われるのが恐いだけだろう。本当は他人に興味なんてないのに、一人が嫌だから無理して人に合わせてる」
「そんなこと、ない」
自分の声が遠く聞こえる。
「本当に?実行委員だってカラオケだって本当は嫌だったんだろ?」
多田の静かな声が頭に響く。
何故か頭痛がする。
「あんたはいつも人の顔色を窺いながら生きてんだ。相手に合わせた自分を演じてる」
「あんたに関係ないじゃん!」
思わず、エリナは怒鳴った。
多田の言葉はエリナの心に突き刺さる。
「あんた見てたらイライラするよ。俺の母親と同じだ」
「……同じ?」
「そう。同じだ。
俺の母親は、誰からにも好かれようとしていた。
誰にでもいい顔して、自分を騙して、演技して……で、五年前に突然倒れた」
多田の目は遠くを見ている。
「何で?」
「さあ。原因は不明。
今も入院中だ。毎日、ずっとボーっとしてる。
会いにいっても、俺のこともわかんねえんだ。
あんた、誰ってな。
きっと、、頭がパンクしたんだろう。
何人も自分を作って、制御出来なくなったのさ。
俺や父親に対しても演じてたからな。
いい母親、いい妻を。
あんたもそうなんじゃないの?」
言葉が出てこない。
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