《MUMEI》
犯人
れおんは唇を真一文字にしてポーカーフェイスを保った。
もりやすは若い。意地になった。れおんはファッション誌のページをめくり、本当に読んでいる様子。
そんなはずはない。焦りが出てきた。今まで30代から40くらいの若い主婦は、皆落ちた。
れおんは脚をしきりに動かし反応はあるものの、ファッション誌はしっかり両手で持っている。
もりやすは禁断の攻撃。れおんの大切なところをビキニの上から圧迫した。
「あっ…」
れおんはファッション誌を枕もとに置くと、明るく言った。
「ちょちょちょ、それは反則でしょう」
手で制した。
「やめよう。こんな賭けをするために来たんじゃないから。あたしは、まじめなマッサージの気持ち良さが好きなの」
れおんに優しく言われ、もりやすのほうが陥落した。
「ごめん」
れおんは身を任せるように仰向けになる。もりやすはオイルマッサージを続けた。
「気持ちいい…」
「れおんチャン」
「何?」
「君ほど魅力的な子は初めてだよ」
れおんは照れた。
「そんな」
めったに誉めない人の誉め言葉は効く。れおんは頭の中にメモをした。
店の玄関では、町田唯ともりやすが並んでれおんを見送った。
「れおんチャン、また遊びに来てね」
「はい」
れおんはニコニコしている。その様子を見て、町田唯は悟った。
「れおんチャン。今度は私のマッサージを受けてね」
「お手柔らかに」
れおんは店を出た。町田店長はもりやすに言った。
「落とせなかったみたいね」
「はあ…」
「胸とあそこ以外で女をその気にさせなきゃ、スペシャルコースは無理よ」
隠れていたマキが笑顔で話に加わった。
「あたしが落として見せましょうか?」
「あなたはダメよ、容赦ないから」
「アハハ」
翌朝。
いつもの明るく爽やかな挨拶がない。れおんは怒っている。
「どないしたん?」
「どないしたんじゃありません。院長。聞きたいことがあるんですけど」
「仕事が先や」
「予約入ってるんですか?」
「今のところないが」
れおんは怖い顔で和室に向かった。着替えるとすぐに出てきてイスにすわった。
「院長。町田店長と友達ですか?」
「知人や」
「知ってたんですね?」
「まあな」
「もりやすさんはその繋がりで知り合ったんですね?」
賢吾は笑顔で交わす。
「きょうは質問攻めやなあ。さては女子アナを目指してるやろ?」
「もりやすさんは店長繋がりで知り合ったんですね?」
交わしきれない。
「まあ、そうや」
「あのお店って、怪しい店なんじゃないんですか?」
「怪しいかもわからんが、悪質な店とはちゃうよ」
れおんは鋭い目で睨む。
「なぜそんなこと言いきれるんですか?」
「まあ、一度相談されてな、唯チャンに」
「唯チャン…店長ですか。何て相談されたんですか?」
「お嬢。守秘義務ゆうもんを知らんのか?」
「何て相談されたんですか?」
逃げられない。
「まあ、他店にはない斬新なサービスで同業に差をつけたいと。みんな大変なんや不況で」
「院長は何かアドバイスしたんですか?」
「食事しただけや。もりやす君と、あと、マキって子と」
「マキ!」れおんの目が怖い。
「マキちゃん知っとんのか。優しい子やろ?」
「どこがですか?」
賢吾はパソコンに向かおうとした。
「さて、仕事や」
しかし背中に質問が飛んで来る。
「院長は何てアドバイスしたんですか?」
「まあ、お客がハラハラドキドキするような、スリリングなサービスを提供したらええんちゃう…NO!」
背後からチョークスリーパー!
「やっぱり犯人だったか!」
「ちゃう、ちゃう!」
賢吾は必死にタップアウト。れおんは両手を離した。
「院長がそんなこと言うからねえ。あたしは本当に怖い目に遭ったんだから」
「どんな目や?」興味津々の笑顔。
「教えません」
「お嬢。緊張感が女を何倍にも輝かすんや」
「輝かなくていいです」

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