《MUMEI》
希視点
去年の夏、失恋した。


だから、去年の文化祭は、あまり楽しめなかった。


でも、今年は違う。


柊が


初めての彼氏が、隣にいる。


柊はずっと近くにいた。


普通に、当たり前にいた。


近すぎて、当たり前過ぎて、自分の気持ちも、柊の気持ちも気付かなかった。


気付いたのは、今年の春。


柊が田中君に告白したと、誤解した時


(あれはちょっと恥ずかしかったな)


自分でも信じられない位動揺した。


祐希が父さんが好きだと言った時と同じか


それ以上に、ショックだった。


そして、その時初めて私は柊が好きだと気付いた。


柊は、ずっと私が好きだったらしい。


(見つけたよ、祐希)


昔、祐希が私に言った『私が、私だから好きだと言ってくれる人』を。


「希? どうしたの?」


思い出し笑いをしていた私に、柊が話しかけてきた。


「ううん。劇、楽しみだなぁって思っただけ」


私は柊と繋いだ手に力を入れた。


(今は、これで十分)


たまにキスして


手を繋いで、笑い合う。


(祐には怒られるけど)


こんな私を、柊は好きだし、私達は私達のペースで付き合っていこうと思った。

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