《MUMEI》
安藤沙希視点
「おかえりなさい」

「ただいま、祐行った?」

「入れ違いで行きました」


(良かった)


今から場所を取れば、きっといい席に座れるだろう。


「先輩優しいんですね」

「ううん」


後輩の言葉に私は苦笑した。


優しいのは、祐だ。


(それに、もっと優しいのは…)


私の幼なじみ


雅樹だ。


雅樹の彼氏の祐を好きになって


雅樹と同じ『恋人』という立場になって


祐を独り占めしたかった、私。


(酷い女)


私はただ、素敵な彼氏にひたすら愛されたかったのだ。


だから、まっすぐ好きだと


私だけだという素敵な人が現れたら、すぐに迷い


そちらに移った。



雅樹は違う。


私は知っていた。


雅樹が可愛い女の子や、時には可愛い男の子にたまに告白されていた事を。


(祐は、知らないわよね)


雅樹は、告白は空手部の部室でしか受けていなかった。


『汗臭い』と、祐が一度も来ないと知っていて、そうしていたのだ。


(私が祈れる立場じゃないけど)


祐と雅樹は、ずっと二人でいてほしいと思った。


ついでに


私がいじめてしまった後輩も幸せになればいいと、今では思っている

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