《MUMEI》 莉子に殴られてから一時間後、腫れは引かない。二人で映画を観に行って俺が爆睡してしまったせいだ。 今日の莉子はかなり気合い入れていてもしかしたら泊まる勢いだったのかもしれない。 帰るには顔が赤くて格好悪い。もう少し待ってみる。 莉子に電話をしてみるが電源を切られていた。 「ちくしょ……」 苛立つので飲み切ったペットボトルを蹴ってやる。 「イタ!」 ……やべ、当たった。 暗がりで人がいるとは思っていなかったのだから、不慮の事故だよな? 「……ごめんなさい当てるつもりはありませんでした。」 逃げようか迷ったが正直に謝る。 「――――いやこっちも不注意だった。」 当たった男は目深に帽子を被りカジュアルそうに見えて実は高そうなパーカーを着ている。 そして、静かなトーンだが聞き覚えのある声だ。 「……高遠光?」 口に出していた。 「はいっ。」 有名人に会ったのは初めてだったが名前を呼ばれて元気よく手を挙げるのはこの男くらいだろう。 「やばい、気付かれる。」 今の小学校のホームルームばりのテンションで振り向いた人がいる。 本人は気にしていないようだが、ペットボトルで高遠光を怪我させたなんてことになって事務所に訴えられたりなんかしたら……。 考えただけでぞっとした。 気付くと、高遠光の手を引いて表通りに出ていた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |