《MUMEI》
仮眠
「わたしもできることがあれば手伝いますけど。こちらの人に見えないんじゃ、できることも限られますよね。でもマボロシの近くにいれば何かわかるかもしれないんですよね?」

「かもしれないってだけなんだけど」

「まあ、大丈夫ですよ。ここの人たちが守ってくれるらしいですから」

「そうね。なにより早く元に戻らないといけないし」

羽田は不安を抑え込み、空元気を出す。
その様子を見て凜は小さく微笑むと「じゃあ、少し眠りましょう。さすがに疲れましたし」と横になった。

「……そうね」

羽田も頷き、ベッドに横たわって目を閉じる。
そしてふとあることが気になり、すぐに目を開けた。

「そういえば大丈夫なの?」

「何がですか?」

凜は壁の方を向いたまま聞き返す。

「津山さんは、元の世界の人にも姿は見えてるわけでしょう? だったらここって役所だし、何か言われるんじゃないの?」

「ああ、大丈夫ですよ。言ってなかったですか?わたしは一つの世界に集中して接触していると、もう一つの世界では存在が薄くなるみたいなんです。いても気にならないみたいな」

「そうなの」

「ええ。それに明日は日曜ですし」

「だったら、いいけど」

「それより早く眠りましょう。もうあまり時間はないですよ」

凜は会話はこれで終わりとばかりに大きく息を吐くと沈黙した。
羽田は凜の背中を少しの間見つめていたが、やがて自然と瞼を閉じてしまっていた。

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