《MUMEI》
拷問エステコース
シャワールームに入ると、マキは俯いたまま小声で言った。
「どうぞ、ご自分でシャワーを浴びてください」
れおんは胸が痛んだ。
「マキちゃんいいよ、もう怒ってないから」
れおんはバスタオルを取ると、ルームの中を見回した。
「シャワーはどれ?」
「あ、危ないからじっとしててください」
「え?」
パカッ。また一瞬で両手両足をマジックハンドに掴まれてしまった。
れおんは力任せに外そうとしたが無理だ。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」
怖い顔で怒鳴る。しかしマキはニカッと白い歯を見せた。
「嘘…」
れおんは弱気な表情で慌てた。マキの意気消沈は演技だ。まずい。
「あたしが思うに」
マキが悪魔の笑顔で歩み寄る。
「ちょっと待ってマキちゃん」
「あんな生意気な態度を取るということは、前回よりもっとハードな意地悪をされたいってことでしょう」
「全然違うよ、何言ってるの?」
だがマキは迫る。
「じゃあ、きょうはねえ。女スパイね」
「ふざけないで。あなたのお芝居になんか付き合ってられないの…きゃははははは、待って!」
いきなり脇をくすぐられた。れおんは真っ赤な顔でもがいた。
「やははははは、やめて、お願い…お願い」
マキは許さない。
「あんな態度取ったら許さないよ」
「許して、わかったから」
「何がわかったの。全然わかってないから、ああいう態度が取れるわけでしょ」
れおんは笑い転げながら哀願した。
「ごめんなさい…やめて、やははは、ダメだからホントに、やははははは…」
マキはれおんの顔を覗き見る。
「許してほしい?」
「許してください」
「かわいい!」
頭を撫でられても怒りは湧かない。許してもらうほうが先だった。
マキはくすぐりをやめると、シャワーを手にした。
「じゃーん!」
れおんは腰が引けた。
「お姉さん、困らせてあげようか?」
「やめようよ、もう」
「やめないよ」
マキはシャワーをれおんの体にかけた。
「お湯加減は大丈夫?」
「あ、うん」
マキは優しく全身を洗う。れおんはなすがままだ。手足を拘束されている間は逆らえない。
マキは結局意地悪することなく、れおんの体を拭いて終わった。
「何か文句ある?」
「ありません」れおんはしおらしく首を横に振った。
二人はシャワールームを出て部屋に戻る。
不意打ち。れおんはマキをベッドに押し倒した。
「キャア!」
「よくも!」
れおんはマキの上に乗ってくすぐりの刑。マキは真っ赤な顔で暴れた。
「きゃははははは、やめて」
「だれがやめるか!」
れおんは容赦なくマキの両脇をくすぐりまくる。
「降参か?」
「降参、降参」
ドアが開いた。町田唯が入ってきたので、れおんは慌てて離れた。
「すいません」
「いいのよ」
マキは早足で部屋から出た。
「年近いからね。遊んであげて」
「はい」
町田唯は優雅に動く。れおんはベッドに上がった。
「仰向けに寝て」
「はい」
れおんは仰向けになった。店長が脇に回る。れおんは不意打ちを食らわないように目で追った。
「まだお客さんには試していないスペシャルコースが完成したんだけど、れおんチャンに体感してもらって、感想を聞きたいのよ」
店長のほうから感想を聞きたいと言ってきた。れおんは内心ほくそ笑んだ。意見が言いやすい。
「れおんチャン、リラックスして、全身の力を抜いて」
れおんは言われた通りぐたあっとベッドに体を預けた。
カチッ。
「え?」
ベッドと同系色の手枷足枷は全く見えなかった。また無抵抗にされて、れおんは慌てた。
「ほどいてください!」
「聞きなさい」
店長に睨まれ、れおんはとりあえず黙った。
「スペシャルコースの仮名称はね。拷問エステコースよ」
れおんは名前に怯んだ。
「私を信じなさい。変なことはしないから」
「はい」
ここは素直になるしかなかった。
店長がバスタオルを剥ぐ。れおんは緊張した。

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