《MUMEI》
愛は会社を救う(71)
仁美は謎めいた微笑を浮かべると、こちらに背を向け資料室を出て行こうとした。
その後姿に、私はある問いを投げ掛けてみた。
「山下チーフ、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
役職名で呼ばれ、意表を突かれたのだろうか。仁美は足を止め、無言のまま片方の耳だけをこちらに向けた。
「"雑件ファイル"、ご存知ですか」
私の言葉に、一瞬、何を言われているのかわからない様子で動きを止める。
しかし、すぐに明確な答えが返ってきた。
「知らないわね」
その態度からは、不誠実さは微塵も感じられなかった。疑いなく、総務グループチーフとしての回答だった。
自分の読みは間違っていない。――そう確信した瞬間だった。
「ありがとうございます」
椅子から立ち上がり、そっと一礼する。
仁美はそれを無視してドアを開け、資料室を出て行った。

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