《MUMEI》 吉野撫子視点(すごい) 私は今、体育館のステージ脇に来ていた。 そこにいたのは 本番直前で、最終チェックをする演劇部員達だった。 部外者の私は、邪魔にならないようにただただその様子を眺めていた。 「あれ? 吉野?」 「田中先輩…」 (…綺麗) 主役の田中先輩は、私が言葉を失う程の和風美少女に変身していた。 「吉野さんには田中先輩の着替えを手伝ってもらうんです」 ボーッとしている私にかわり、同じ一年の坂井さんが説明してくれた。 私が田中先輩以外に面識がある部員は、部長と坂井さんだけだった。 「そっか、よろしくな吉野」 「自分で希望したからには頑張ります」 私の言葉に田中先輩は少し驚いていた。 実は、今私は『押してもダメなら引いてみよう』作戦を決行中だった。 入学当初からずっと私は守兄様の視界に意図的に入るように 話しかけてもらえるようにしてきた。 しかし、最近は逆にわざと視界に入らないようにしている。 (少しでも寂しいと思ってもらえますように) 今日も、守兄様からは決して見えないステージ脇で、私はそう祈っていた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |