《MUMEI》
吉野撫子視点
(すごい)


私は今、体育館のステージ脇に来ていた。


そこにいたのは


本番直前で、最終チェックをする演劇部員達だった。


部外者の私は、邪魔にならないようにただただその様子を眺めていた。


「あれ? 吉野?」

「田中先輩…」


(…綺麗)


主役の田中先輩は、私が言葉を失う程の和風美少女に変身していた。


「吉野さんには田中先輩の着替えを手伝ってもらうんです」


ボーッとしている私にかわり、同じ一年の坂井さんが説明してくれた。


私が田中先輩以外に面識がある部員は、部長と坂井さんだけだった。


「そっか、よろしくな吉野」

「自分で希望したからには頑張ります」


私の言葉に田中先輩は少し驚いていた。


実は、今私は『押してもダメなら引いてみよう』作戦を決行中だった。


入学当初からずっと私は守兄様の視界に意図的に入るように


話しかけてもらえるようにしてきた。


しかし、最近は逆にわざと視界に入らないようにしている。


(少しでも寂しいと思ってもらえますように)


今日も、守兄様からは決して見えないステージ脇で、私はそう祈っていた。

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