《MUMEI》
理由
 笑いながらエリナは、何故、あんなに多田にいらついていたのか分かった。

前にアンナが言っていた。
エリナと多田は同じに見える。
しかし、実はまったく違った。

多田は自分にひどく正直なのだ。
正直な自分のままで人に好かれている。
友達が増える。
いつも心から楽しそうに過ごしている。

対して自分にあるのは、人に好かれる為の計算ばかり。
自分にないものを多田が持っていた。
ただ、それだけの理由だったのだ。

ひとしきり笑ったあと、エリナは立ち上がった。

「どこ行くんだ?」

「とりあえず、今すぐに自分を変えるのは無理。人間急には変われないって昔から言うしね」

多田は少し眉を動かした。

「だから、とりあえず、今からできそうなことをやることにする」

多田は「そっか」と静かに頷いた。

「それからあたし、やっぱりあんたのこと嫌い」

多田は笑って手をヒラヒラと振り、「俺もだよ」と答えて校舎へ戻っていった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫