《MUMEI》

其所に居たのは猪俣だった…。



『辛い思いをさせて済まなかった…


…全て俺のせいだ…


…許してくれ…。』



猪俣の声はとても優しく…



それでいて悲しみを押し殺したように、僅かに震えていた…。



何故か猪俣はずぶ濡れの格好で、手に怪我をしているようだった。



しかし猪俣は、そんな事を気にする様子も無く、加奈子に背を向けたまま、病室のカーテンを開けた…。



そして窓の外をぼんやりと眺めていた…。



いつの間にか雨は上がっていた…。



その時、雲間から月が顔を出し、猪俣の顔を照らし出した…。



その表情を見た加奈子は、思わずビクリとした…。

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