《MUMEI》

そのまま角部屋のバルコニーまで来ると、すぐ近くに隣のビルの階段が見えた。
「跳ぶぞ」
言うが早いか、織田はバルコニーの壁に上り、軽く反動をつけて階段の壁へと跳び移る。
ユウゴも同じように跳び移ったことを確認すると、織田は指を口にくわえて大きく息を吹いた。
甲高い音が建物の壁に反響して響き渡る。
そしてすぐに振り向き「行くぞ」と階段を駆け降り始めた。

一階まで降りるとスーツ姿のサラリーマンたちが部屋で仕事をしていた。
どうやらここは何かの会社のビルらしい。
サラリーマンたちの怪訝そうな視線を受けながら、二人はビルの奥へと走り行く。
「裏から出るのか?」
ユウゴが聞くと、前を行く織田が小さく頷いた。
「奥に駐車場へのドアがある」
「駐車場て、車は?」
「あるさ。ここに」
言って織田はちょうど奥のドアからこちらへ歩いてきた男の胸ぐらをいきなり掴んだ。
「な、なんだよ、あんた?」
男は突然のことに目を見開き、驚いている。
織田は無言のまま男の腹部へ拳を叩き込むと「死にたくなければ車のキーを出せ」と低い声で言う。
男は顔を歪めて「な、なにを……」と織田を睨みつけるがその顔を織田は壁に容赦なく叩きつけた。
「出せ」
男は鼻から血を出し、目に涙を浮かべてポケットからキーを取り出した。
「行くぞ」
織田はキーを奪うと再び走り出した。

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